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「それでも生きなくちゃ」(28)

アタシは風俗嬢を辞めて10年以上経っていた。
地元の風俗は廃れているから、とりあえず5日間キャストとしてちょっと地方に遠征してみる事にした。
夜の喫煙所で久しぶりに夜職の女の子達とここでは書けないようなキャスト達の本音トークで盛りあがったりもした。
 
SNSで情報を拾うと「今」が見えてくる。
稼げる、稼げる、稼げる……スカウト達の胡散臭いツイート。
夜職キャストである事をプロフィールに書いてアピールする女の子達がこんなにいるとは思ってもなかった。
風俗業界に足を踏み入れるハードルが昔より低くなったのを肌で感じた。
風俗のキャストになるという事は、
自分の「春」を売る。
自分の「性」を売る。
そういう世界だ。
「オンナ」として自分を商品化し、価格を付けて、そして「対価」に相応しい「サービス」をする。

ただ、10年以上前のアタシの風俗嬢としての入口というかスタートがちょっとだけ異端だった。

アタシがこの業界でスタートを切ったのは「SM倶楽部」だったからアタシは「ちょっと特殊なサービス業」としてのテクニックを身につけていた。

だからアタシは「春」や「性」を売るプラスアルファとして「技」を売る事が出来るそれだけが強みだった。

押し入れの奥に隠していたダンボール箱を出した。
封を開けて中身を確認する。
自分の物持ちの良さに呆れながらも、自前で揃えたコスチュームや小道具から使えそうなモノを見繕ってキャリーバッグに詰めていった。

アタシが風俗嬢として出稼ぎを決めた期間は5日。
その5日間、君が以前よりもアタシにマメにメッセージを送ってきた意味がわからなかった。

そして、一番驚いたのは君からの最初のメッセージ……
『もしかして、2店舗で働いてるの?』
君のメッセージの意味が一瞬わからなかった。
君がまさか、ダミー店のアタシの写真を見つけるなんて思って無かったし、顔も出してない黒いタイトなニットの胸元だけの写真を見てアタシだと君がわかるなんて……
『そっちはダミー店舗だよ。何でアタシだってわかったの?』
『胸見たらわかるよ?服着ててもね』
携帯の画面の向こうでニヤニヤ笑っているいつもの君の顔が浮かんだ。
頭おかしいんぢゃないの?
バッカぢゃない?
アタシの胸しか興味無いの?
てか、何で?……何で?……何で?……
アタシだってわかるの?

アタシは心の中で毒づきながら、たくさんある新人キャストの写真から、アタシを探している君を思い浮かべて泣きたくなった。

アタシ、君と「サヨナラ」したよね??
君はアタシに「最後だよ」ってキスしたよね?

アレはなんだったの?

結局、風俗嬢として出戻った5日間、君からのメッセージは途絶える事はなかった。
最終日の夜にアタシから君にメッセージを送った。

『明日、帰るから』
『お疲れ様。気をつけて帰っておいで』

『ねぇ?……帰ったら、また会える?』
君がまた、困った顔をしている様子をアタシは思い浮かべた。
『この前みたいに、泣かないなら考えとく』

アタシも狡いし、諦めのわるい馬鹿なオンナだけど、君もやっぱり狡いよね。
逃げ道を作りながらも、できないことはできないってハッキリ言う君が「考えておく」って言うのは「いいよ」と同じ意味だってアタシ知ってるんだよ?

アタシは君にとってどんな存在なの?
都合のいいオンナ?それだけ?
でも、アタシが凄くめんどくさい性格なのはもう君もわかってるよね?

いつまでも夢は見ていられない事はアタシだってわかってはいるけど……

アタシね、君の事好きなまま死ねるならそれでもいいかなって思ってるんだよ……

君の人生の物語の中で、アタシ本当は恋人になりたかったけど、それは叶わない希望だってわかってるから……

もし、生まれ変わってまた、君と出逢えたら、その時は……

アタシ普通の女の子として生まれてくるから……

君のお嫁さんになりたい……

君とぢゃなきゃアタシ、ダメなんだ……
生きてる意味が見つけられないんだよ。


だって、まだ君の事が1番好きだから……










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