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「それでも生きなくちゃ」(16)

帰りの車の中。
「ね?今度デートしよっか?」
君がどんな言葉を返すのか、どんな反応をするのかわからなくて、車を運転する君の横顔をアタシは、じっと見つめた。
「デート?」
「うん。デートしたいな」
君はアタシの顔をチラリと見つめる。
「デートって何するの?」
アタシは普通の女の子達のように、好きな人と、ご飯を食べたり、映画をみたり、手を繋いで歩いたりした事が1度もなかった。
だから君の問いの正解がわからなかった。
「……デートって、一緒にご飯食べたり、映画みたりとか?……デートした事ないから違うのかもしれないけど……てか、スナックの女の子とデートしたりした事ないの?」
「スナックはねぇ……飲みに行きたいだけだからなぁ……まぁ、最近は飲みにも行ってないけど」
「そうなんだ……」
君の予想外の言葉にアタシは少しだけ、安堵している自分に気がついていた。
そして、アタシは自分が傷つきたくなくて、君に意地悪な言葉をかけた。
「スナックの女の子にも、アタシみたいにちょっかいかけてるのかと思ったんだけど?違うの?」
君が、アタシをスナックのホステスの女の子と同じように扱うから、アタシは君の本当の気持ちが知りたくて仕方なかった。
(アタシは君の中でどんな存在なの?)
期待していたアタシがいた。
「特別」になりたかった。
君の中の女の子になりたかった。
君ならアタシを「普通」の女の子にしてくれるんぢゃないか……アタシの中の淡い期待が大きく、大きく膨らんで、今にも爆発してしまいそうだった。

「スナックの女の子に手を出したら、飲みに行きにくくなるから、デートに誘ったりはしないよ」
「スナックでは、飲みたいだけなの?」
「そうだね」

君が、誰にでも軽い気持ちで、誘いをかけて遊んでいる男なら、よかったのかもしれない。
それなら、今夜、君とセックスしても、アレは遊びだったんだと、アタシも割り切れたのかもしれない。

会社の女の子に手を出しちゃう方が後々めんどくさいって思わないのかな?
アタシの中にあった素朴な疑問。

君にとって、アタシはどんな存在ですか?
そんな簡単な言葉が口に出せない、いや、口に出してしまうのは怖かった。
君からアタシに欲しい言葉は1つしかなかったから……

それ以外の言葉は欲しくなかった。

でも、君は未だにアタシにそのたった一つの言葉をかけてはくれないまま。

君はね、もうずっとずっと前から、アタシの中のたった1人の特別な男の人なんだよ?

君の手が助手席に座っているアタシの胸に触れた。
アタシは君の掌の温もりを感じたまま、拒みもせずに君を受け入れていた。

でも、言わなきゃいけない。
君の手が、アタシの胸から離れ、太ももにゆっくりと触れた時に、君がアタシとセックスしたい事だけはわかっていたから、だから、言わなくちゃいけなかった。

「あのね?……さっきね、生理始まっちゃったみたいなんだけど……」
アタシはてっきり、君が今夜、アタシとセックスするのを諦めると思っていた。
なのに、君は「そうなの?」とだけ言ってアタシの太ももに触れる手を離しはしなかった。

あの時、君が「そうか、残念だな」ってくらいの軽い言葉で、アタシとのセックスを諦めてくれたらよかった。

君はどうして、あの日アタシとセックスしたの?

未だにその問いの答え合わせは出来てはいない。


あの日の君のキスを何度も何度も、繰り返し思い出す日々がこんなにも続くなんて、思ってなかった。

アタシの中で、少しずつ大きくなった君への恋心は、ゴールの見えない未来に向かって、走り出していた。

あの日、君とセックスしていなくてもきっと未来は変わらなかった。

アタシは、あの運命の日よりもずっとずっと前から、君が特別な男の人だった事に、やっと気がついたんだ。

そして、君との「普通」ぢゃないヘンテコなアタシと君の関係がこんなにも長く続くなんて……

神様がいるのなら、どこかでアタシをみているのなら……


アタシが自分の人生をやり直す為に、君とアタシを出会わせたんだと……

間違いなんかではないと……

答えて下さい……

罪深いアタシをもう、許してもいいですか?

誰にも言えなかったアタシの罪が、許される時が来たのですか?……







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