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渋谷敦志写真展 「GO TO THE PEOPLES 人びとのただ中へ」

2020年11月5日(木)~2020年12月14日(月)@キヤノンギャラリー S

微温的な日常から苛烈きわまる現場へとおもむき、想像を絶する人生の時間を生きてきただれかと出会う。暴力や貧困や差別といった不条理に追い詰められた人びとは、キャンプやスラム、監獄などと呼ばれる抜き差しならない環境に留め置かれ、生きづらさを強いられている。

そうした「隔離のなかの生」に、写真家として生身の身体と眼を通じて向き合うたび、乗り越えるべき境界線は、自分の外ではなく、内にこそ引かれていると気づいていった。

隔離の外にいると思い込んでいた自分も、すでに現代の自閉的なシステムの囚われの身なのかもしれない。そんな自己隔離の獄から脱出し、見えない境界線を繰り返し越境することで、一人ひとり固有の名前とまなざしをもつ「人間」に邂逅したいと願ってきた。

困難を生きる人びととわかりあえないことに苦悩しつつも、カメラを差し向け、“あなたのことが知りたい”と心の扉をノックし、人間の生のリアルに愚直に迫る。そんななかでときたま、その人の「生きる」の片鱗が分け与えられることがある。

そんな贈りものを端緒に、人と人とのあいだに分断する境界線を引くのではなく、共にいられる場所を開く。未知の災禍が人と人を引き離す今こそ、移動し対面するという営みを写真行為の出発点にすえなおし、人びとのただ中へと踏み込みたい。

なぜなら、自分にとってそれだけが、決して失うべきではない、人間を人間たらしめる何かを覚醒させるたったひとつの方法だから。

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