No.33 We Love ``Russia'' 事変 潤羽るしあ編

0. はじめに

2月になってからRussiaもといロシアが文字通り世界を騒がせているが, 一方その頃日本では, Rusiaもとい潤羽るしあが, この世界のごくごく片隅を騒がせていた. この落差に驚くというのか, 呆れるというのか, あるいはマヌケなjapらしいというのか, まぁともかくワールドトレンドにはなっていた(しなっている). その両者を象徴するのが表題にある「We Love ``Russia''」なわけだが, この2つが奇妙にlinkしたというのはある意味では他に類を見ない大変珍しい事象とも言える. そこで一つの歴史の証言として, この事象を2つの側面についての雑感を思いつくままに述べる. 一つは今回のnoteで述べる「潤羽るしあ編」であり, もう一つは次のnoteで述べる「ロシア編」である. 当然この2つの事象は互いに何の関係もない. だから「ロシア編」を読むために「潤羽るしあ編」を読む必要も全くない(逆もまた然り). そもそも読む人もほぼ皆無だろうからどうでもよいが, 老婆心ながら最初に注意しておいた. 

1. ざっくりとした経緯と背景

 「潤羽るしあ編」を話す上で必要最低限の準備を行うが, 正直``専門家''ではないどころか興味関心もあまりないので, 潤羽るしあ自身(存在は知っていたし, 配信も見たことはあるがそれ以上は知らない)や``まふまふ''(こちらについてはほぼ何も知らない. 紅白さえも見ていない)といった今回の騒動についてのself-containedな説明は一切しない. 今回押さえておくべきは

『大手のVTuber事務所である「ホロライブプロダクション」(カバー)の稼ぎ頭筆頭(数百万, 数千万円クラスのスパチャをする``太客''を数多くかかえ, 年億単位の稼ぎがあったとされている)であった「潤羽るしあ」が, 配信中に起きたちょっとした「ハプニング」をきっかけに, ある意味それとは直接関係無い(しかしそんな「ハプニング」よりも遥かに深刻な)諸々の所業が明らかになったことが原因で, それから2週間で契約解除になった(そしてその日がロシアのウクライナ侵攻の日と重なった)』

という巷間伝えられている程度のことで, それ以上の細かい背景(``まふまふ''との関係, コレコレへのリークや配信等々)は, 今回どうでもよい(後者は解雇理由に関係した可能性が高く実はどうでもよくないのだが面倒なので略). 今回論じたいのは表題にある

「We Love ``Russia''」

である. 

 一応, 主題なのでこの背景についてはもう少し詳述しておくと, 上述の「ハプニング」が起きたのが2月10日(火). それから数日後くらいだったと思うが(詳しい時期についての記憶は曖昧である), 恐らく潤羽るしあサイドのファンを中心に``彼女を励ます(?)''ということを目的として, 

大好きだよるしあ

というハッシュタグが作られ, それが一定数以上tweetされた. それをTwitter(のAI?)がトレンドとして感知して英語に訳してできたのが

We Love Russia

と訳されてしまい, 急激に緊張が高まりつつあったウクライナ情勢と相まって物議を醸したとか, 醸さなかったとかいう``都市伝説''(つまり真偽のほどはよくわからない)である. 

2. 問題点の考察

 さて大まかな経緯は以上の通りだと私は理解しているが, 何も事情を知らない人はこれを見て何が騒動になったのか全く理解できないと思う. かくいう私自身もそうである. つまり, 非常に端的に要約すれば

ある企業(事務所)のある社員が守秘義務違反を破り, 契約解除をされた

ということで, 非常に「よくある話」なのである. 一般と違う点はまぁ社員の中でも業績が良かった(トップクラス)社員であったことだろうか. 企業関連の契約違反やそれにより発生する損害は, 如何に好成績の社員といえど背負うには余りに大きいわけで, 不祥事が発生すればクビを切られるのは極々自然な流れであり, そこに何の問題も無いように思える(ちなみに「るしあクビ」も「Russia fired」と訳されてその日のロシア侵攻サイドと関連しているとかいないとか). 

 いわゆる「ガチ恋営業(正直コレの正確な定義も理解できているわけではない)」の観点から論じてみても, 正式な「契約」という形態ではないにしろ, 視聴者達とのある種の「契約違反」のようなものだと解釈すれば, これもやはり自然な成り行きに思える. つまり「ビジネス」の範疇で解釈すれば, (「ホロライブ」側が後日何らかの損害請求をする可能性も無くはないだろうが)「るしあクビ」で各方面に手打ちをしたのは妥当なセンだし, ある意味それで終わっている話なのである(正直, 今の彼女にはそれ以上のことは何もできない. 元来その程度の存在であり, それ以上のことを期待する方が間違っている). 

 では結局何が「騒ぎ(?)」になっていたのだろうか? 私個人も正直よくわかっていないが, どうも本来ならば「問題」にすらならない問題が「問題」になってしまったことがこの「騒ぎ」の本質で, その謎を読み解く鍵が「We Love ``Russia''」にあると思われる. これを言い出したのは恐らくいわゆる「ふぁんでっと(ファン+アンデット?)」の連中で, それは「何か当人を励ましたい」という何某かの善意だったのだろうとは思う. 

 しかし, この手の不祥事, 炎上案件について当事者ではない外野の対応の鉄則は

「極力問題に触れずに, 沈静化を待つ」

なので, どう考えてもこれは悪手である(ちなみにこの点に関しては「ふぁんでっと」だけではなく「ロシア編」のプーチンも同様の悪手を打っており, そこも「We Love ``Russia''」の共通点といえる). 事実として, この全く意味不明な外野の対応(正に「小さな親切, 大きなお世話」)によって無駄に騒動になった感も否めない. これに関しては

「さぞ, 潤羽るしあ当人も迷惑なことだっただろう」

と, 彼女個人についての諸々の問題を於いても同情を禁じ得なかった. 現に騒動の渦中にあって彼女は時折tweetを漏らした(いずれもすぐに削除)が, そのいずれもファンに対しての謝意は一言も無かった. 道義的に大いに問題があった発言ではあったが, 同時に本当に心の底からありがた迷惑(というより本当に迷惑)だったのだろうとも推察された(メンヘラ気質(?)の彼女もまさかあの渦中でファン達に「余計なことをせずに, いいからとにかく黙ってろ!!」とは言えず, アレができた精一杯の策だった?). 

 他方でこういうことは

「人気VTuber」なる職業形態が根源的に抱えているリスク

とも考えられる. 大体「対価の交換」という真っ当な「ビジネス」形態から大きく逸脱して, ほんの些細なことに何百万円と個人で支払うような, リスクと利益(benefit)のバランス感覚が破綻している, ある種の狂人達を相手にするのだ. ハナから「真っ当な常識は通じない」と想定しなければなるまい. 

 それに加え, そもそもVTuber(の中の人)などというものは, 少し配信がうまい程度の極々普通の人間である. 恐らくそれなりの訓練を積んだ人間でも, 同時に相手にできる人間の数などは精々数十order, どんなに無理をしても千には絶対に届かないのだ. 何時間もの生配信でのべ何千, 何万と集まった有象無象の人間の膨大な思惑, 悪意を, 長期にわたり相手にし続けられるわけがない. そういう意味では, 今回の全くくだらない騒動が無かったとしても, 遅かれ早かれ破綻したのは必然といえよう(そういう意味では桐生ココ, 潤羽るしあとトップから崩れていったというのにも必然性があるように思う). 月並みの言い方をすれば, 酷く平凡だが

「バブル」が弾けた

ということになる(元々過剰評価だったものは値崩れを起こしやすい). 

 どうも人気VTuber(人気でないVTuberは分母が小さいので利益が小さい分, この手のリスクも非常に小さくなる)の類は, まだ業界が創成期ということもあるのだろうが, この辺の意識が余りに無邪気というか, 無頓着に感じる. 私は, VTuber如きに御することなど到底不可能な有象無象の何万ものファン達の圧倒的狂気, 狂熱の破壊力を, 恐らく彼らの誰よりも``信頼''している. そこで荒稼ぎをしようというのは, いついかなることがきっかけで大炎上するかわからない, 余りに危険な火遊びであり, 相当の「悪党」の資質が要求される. つまり本来は配信が少々うまいだけのカタギの凡人が手を出すべきものではないわけで, 今名が通ってるような連中も, この数年で篩に掛けられて恐らくは殆どが残るまい. 残るとしてもその先にあるのは, 配信者, ファン共々その死線を潜り抜けた粒揃いの「悪党」共が君臨するディストピアであり, まぁ凄惨な「地獄」を予感させる. そういう意味では, 経緯はどうあれまとまった金を得て早々にリタイアできる方が幸せなのだろうが, 前例を見る限り一度ハマるとどうあっても抜けられない「地獄」らしく, やはり救いはないらしい. 

3. We Love ``Russia''の果て

 以上のように, 「We Love ``Russia''」の圧倒的狂熱によりstardomへと押し上げられた(このプロセスの実際については私は何も知らない)平凡な女が, その狂熱と自身の不手際とが相まってアッと言う間にその地位から転げて落ちていく様は, 文字通り古典的様式美そのものといえよう. 個人的には, それはもう幾度となく繰り返され, 悲劇の段はとうに通り過ぎ, 喜劇の段さえも軽く飛び越えて, 「まぁ, そんなモンでしょ」と諦観(一種の悟り)の域にまで到達している. 尤も, 当事者の潤羽るしあや「ふぁんでっと」にとってはまだ悲劇なのかもしれない. だが, それを全く関係ない第三者の諦観の域からみると相対的にまだ「喜劇」に見えないこともないわけで, 「ロシア編」の裏版のささやかな``エンターテインメント''として, 記録に残しておこうと思った次第である. 

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