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【禍話リライト】『額の手』

「金縛りに遭った」というと、「それは脳だけが起きてしまったせいだ」などと返す人もいるが、中にはそうじゃないのでは……。という話もある。

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一人暮らしをしているAさんから聞いた話だ。

Aさん自身も、これまで何度か寝ているときに意識はあるが体は動かない、といった金縛りを体験したことがある。

その日もいつもの通り寝室に布団を敷いて寝ていた。

眠りにつきしばらく経つと、ふっ、と覚醒してしまった。

意識ははっきりとしているが、目を開けることも手足を動かすこともできず、ちょっとして(あぁ、また金縛りかぁ……)と思ったが、その日は今までの金縛りとは違うことがあった。

布団の横に誰か立っている。

目を開けて確認したわけではない。布団や、それが立っているあたりにある、自分の腕に触れているわけでもない。

だが確実に気配がする。真っ暗な部屋で、性別も体格もわからない何者かが立っている。

今までの金縛り経験上そんなことは無かったAさんが内心焦っていると、熱を測るように、いきなり額に手を当てられた。

やけに柔らかい、温度を感じさせない手が、Aさんの額と瞼を覆うようにして、当てられた。

やがてその手、指先がくっ、と少し動いたかと思うと、Aさんの頭をぐぐぐっ、と押し付けてきた。

枕にどんどん頭が沈んでいく感覚が後頭部から、耳からとい伝わってくる。

さらに手は止まることなく、枕にAさんの頭を押し付ける。そんなに沈むような枕ではないのに。

(え~っ! 何が起こっているんだ! 辞めてくれ!)

声にも出せず内心で叫ぶが、手は今だに頭をぐぐぐっと押してくる。

最中にAさんは、先程まで感じていた、そばに立つ何者かの気配もまだあることに気が付いた。

前屈みになっているのか、もしくは――複数人が、今自分の周りにいるのか。

ピンポーン。

インターホンが鳴った音が耳に届く。その瞬間、手も気配も感じなくなった。

バッ、とAさんが目を開けると、真っ暗な自室が目に入る。金縛りが解けた。

目線を動かし周囲を見るも誰もいない。再びインターホンが鳴った。

ゆっくりと立ち上がり部屋の明かりを点け、時計を確認すると、午前二時を少し過ぎたくらいだった。

(さっきまであんな目に遭っていたうえ、こんな時間に来客?)

寝室に居たくないのもあって、Aさんは玄関へ向かった。覗き窓からそっと外を伺うと、そこには困ったような顔をした、どこにでもいるような、眼鏡にスウェット姿の男性が、再びインターホンを押そうとしている姿が見えた。

疑問に思ったままのAさんがチェーンをかけた状態で玄関を開ける。

「あの……何でしょうか……?」

「えっと、下の階のものなんですけど、すみません、大丈夫ですか?」

急な来客からの意図が分からない安全確認に、Aさんが(大丈夫? なにがだ?)と、ますます混乱していると、男性は続けて。

「急にバタバタ騒がしい音が聞こえて、それに叫んでいるような声も聞こえたので……」

時間も時間、周りに配慮しているのか性格なのか、男性が小声で説明する。

「えっ、あっ、はい、大丈夫です」

(俺うなされたり、無意識で叫んじゃってたのか……?)

体は無事だったAさんも若干挙動不審になりながら答える。

「本当ですか?」

犯罪か何かかと勘違いされているのか、男性がAさんの部屋の様子を伺おうとしてくるのを、「大丈夫です」と「すみません」の繰り返しで応酬する。

「あのっ、本当に大丈夫なので、すみません、ご迷惑をおかけして……」

「そうですか……」

と時間にしては五分十分程度だっただろう。男性は振り返りマンションの階段がある方へ向かっていった。

その後ろ姿を見送ったAさんは、自分ののどの調子や手の状態を確認するも、普段通り、特に異常はない。

(下の階、って言ってたし、明日の日中にでも、ちゃんと謝りにいかないとなぁ……)

と、その日は寒くないこともあり、寝室に居たくないAさんはリビングで夜を明かした。

翌日、夕方過ぎ。

Aさんは自分の部屋の真下の部屋のインターホンを押した。

「はぁい」

そういって玄関越しに対応したのは、明るそうな、学生くらいの若い女性だった。

(……アレ?)

どこをどう見ても、昨夜自分の家に尋ねてきた男性ではない。

「あの、昨晩……すみません、うるさくしてしまったみたいで。彼氏さんかなにかでしょうか?」

あいまいな尋ね方をAさんがすると、女性は

「昨日ですか? 別にうるさくなかったですよ」

逆に大丈夫ですか? とAさんは心配されてしまったらしいが、相手の女性は特段Aさんを不審がる様子もなく、お互い防犯に気を付けよう、と話を終えた。

あれぇ、おかしいなぁ。と、自分の部屋へ戻る途中、昨夜男性が向かって行った階段を昇っている最中に思い出した。

眼鏡をかけスウェットを着たどこにでもいるような男性、見送った後ろ姿。
いや、玄関で対応していた時にはもう気が付いていたのかもしれない。

その足元

(――裸足だったなぁ。)


Aさんはその後も同じマンションに住んでいるが、おかしな金縛りに遭ったことはそれっきりだ。


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 この記事は、ツイキャス「禍話」さんの怖い話をリライトさせていただいたものです。

公式ツイッター
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ツイキャス
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youtubeチャンネル『禍話の手先』
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から書き起こした二次創作となります。

該当回『シン・禍話 第四十四夜 加藤君がいないと……回』

ツイキャス版
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/553008146

6分あたりから。

●タイトルはドントさん( https://twitter.com/dontbetrue )のツイートから拝借しました。いつもありがとうございます。

https://twitter.com/dontbetrue/status/1487450017409290240?s=20&t=mmXEeKPT355-1xIEwSLhqw

●あるまさん( https://twitter.com/aruma1220 )による禍話まとめwiki

https://wikiwiki.jp/magabanasi/


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聞き手がいないと怖い話が多くなる傾向にあるんじゃ。

 

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