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天然素材を軸とした、カラーコーディネート

それぞれのブランドには得意不得意が当然ながらあります。
生地の製造が得意だったり、石材の調達、加工が上手だったり、金属加工が得意だったり、ガラス加工が世界一であったり、あるは複雑な形を再現できる工作機械を所有していたり、世界に数人だけのお抱え職人がいたり、などなど。
空間構成の核を、ブランドの売り商品、目玉と設定するケースが近年見られる。高い石加工を有するブランドであれば石を中心に、それはガラスであったり木材であったり金属であったりします。
サローネのブースやショールームの構成にあたってアートディレクターが気を配っている点は、空間構成における色彩の使い方であると感じます。
特に自然物を起点に色が決定されていることを以下のブランドから見ることが出来るでしょう。
それでは、各ブランドのカラーコーディネートを見ていきましょう。


以下の写真はカッシーナ

ロッソレ―バント、マット仕上げ


アートディレクターがリッソーニからウルキオラに替わり、カラフルな色の展開が近年目立ちます。
左下のローテーブル(Michael Anastassiades 新作) 大理石ロッソ・レーヴァントを中心に空間の配色が決まっているのが分かるでしょうか。
この大理石はイタリアのリグーリア州のレーヴァント付近で採れ、ジェノヴァの教会を訪れると、あちこちにこの石を見ることが出来きます。
ずっと昔から使われてきた石です。迫力のある石目と強いボルドー色という事から、過去10-15年余り表立って使用されてこなかったですが、近年非常に人気がある石材の一つです。

ロッソ・レーヴァント(自然物)を中心に、スカルパのソファーフレームの色が決まっています。さらに奥の壁面にも同じ色が使用されています。

そして、カッシーナの新色、ライトブルーグレーのファブリックで空間全体を馴染ませています。

上記の写真は、同じプロダクトで色違いの部屋。
中央のカラーラ(自然物)のローテーブルを中心に、ソファーとカーペットの配色、が決まっています。壁のブルーライトグレーも、カラーラのグレーと響き合わせてますね。


以下は本会場ミノッティ

Minotti

ミノッティもロッソ・レーバント(鏡面仕上げ)を中心に、ソファー、壁面と色を響き合わせています。
左の壁面は、ローズウッド(パリッサンドロ)を使用しています。また、天井とカーペットの配色も近い色を指定しているのが分かります。ソファーも非常にシンプルな形を採用し、非常に力強い印象が伝わってきます。
カッシーナとはスタイルが違いますがやっていることは同じですね。

Minotti

写真にはありませんが、ヴェルデ・レーヴァント(緑の大理石)を使用した部屋もこの部屋と対の関係となっており、印象的でした。

石材は取れる部位によって表情が180度変化します。どれくらいの塩梅の石目が欲しいかは、建築家と現地の石材加工業者とのやり取りで決まっていきます。お目当ての石目が見つかったらブロックごと買い上げます。ブロックで買えば、20-30枚ほどのスラブが確保でき、大体どの部位を選んでも、同じような石目の天板を供給することが可能です。

ブロックが変われば石目は大きく変化してしまうので、細心の注意を払い、ブロックを選びます。

カッシーナにしろミノッティにしろ、他社と比べても非常に高度な石材加工技術を持っています。安定した石の供給先、石材の選定から仕上げまでをコントロールできるノウハウを彼らは持っているのでしょう。

ソファーもやチェアーも重要なアイテムですが、石目の天板がコアとなる商品であることが伺えます。


Maxaltoショールーム

Maxalto 1

アントニオ・チッテリオがディレクションを務めるMAXALTO。
白と黒の2色。白は柔らかいフォルムで、黒は幾何学的なフォルムでアウトラインとして扱っています。黒の占める面積を極力少なくして緊張感を演出しており、まるでシャープペンでスケッチをした世界感のようです。
天板にはまるで、水面を模しているかのようなガラス天板が使用されています。

Maxalto 2

Maxalt1のイメージをそのままに、ソファーには細く黒いラインのファブリックを使用しています。

Maxalto 3

上記の2点と基本的に同じですが、ソファーのフレームに黒のベタ塗りを使用することで、少し重厚感を出しています。

オークの天板を軸とした、ベージュ一と白の配色。2023年頃よりMaxaltoはこのような思い切った配色で展開しています。クリーン、ナチュラル、ミニマル、フェミニンといったキーワードがMaxaltoの商品から伺えます。

ベージュの椅子とテーブルとカーペット、背後の黒のシェルフの2色展開。

以前紹介した、Frexformをより洗練させた色と素材の使い方をしている。どことなく日本のミニマルな要素も感じられます。

要素を限りなく絞り、徹底した色使いは、マーケットをより鮮明にしていますね。


キッチン背面、キッチン天板、キッチン開き戸
の色に注目すると、色がキッチン天板の大理石であるブレッチャ・インペリアーレを中心に決められているのが分かります。

レッドブラウン、ホワイト、ブルーグレーが複雑に混ざり合った ブレッチャ・インペリアーレ


レッドブラウン、ホワイト、ブルーグレーが複雑に混ざり合った ブレッチャ・インペリアーレBreccia Imperiale

背面、天板、キッチン開き戸に色が完全に一致しているのが分かります。


話はすこし飛ぶかもしれませんが、

デザイナーとしてクライアントにプレゼンするときに、
「なぜ」を説明できなければなりません。

なぜ、この仕上げなのか?
なぜ、この色なのか?
なぜ、この素材なのか?
なぜ、今なのか?

これらの問いに、デザイナーは、経営陣に対し説明していきます。
なんとなくじゃ、プレゼン通りませんよね。

「なぜ」の要因は非常に様々です。

テクノロジーの進歩であったり、経営的アドバンテージだったり、コストだったり、その時仕入れた綺麗な石材であったり、企業の買収であったり、もしくはコロナだったり、戦争だったり。
これらの無数の要因から、「なぜ」を導き出していきます。
様々な要因が絡み合った糸の塊から、スッと、きれいな一本の糸を抜き取らなければなりません。

あくまでも一例ですが、具体的に以下のような因果関係が考えられるでしょう。

テクノロジーの進歩: 再生プラの利用。環境に配慮した新素材。AI やNFT、などを取り入れる。
社会情勢 戦争: 石油価格の上昇により、プラスチック製品より、天然の素材が多用される。地元の石材や木材などを積極的に取り入れる。
社会情勢 コロナ: 清潔感のあるマテリアルが多用される。ガラスなどの透明感のある商品、光沢のある仕上げなど。 
買収や合併などの社内情勢: 合併することで得られた新しい技術を使用、例えばボッフィがデ・パドヴァを買収したことで、木工製品をコレクションに取り入れるなど。。

アートディレクターの役割は、経営陣との対話の中で、将来のブランドの在り方をデザインの側面から提案していきます。
また、全体のコレクションの統一性を見出したり、ショールームやブースの見せ方も同時に考えます。
新しいテーマを見出し、それに見合った素材も開発、あるいは再発掘していきます。

ロッソ・レーバントは礫岩であるため、他の大理石に比べ石材として弱い傾向があります、しかし、カッシーナやミノッティは、非常に薄くカットした天板を新作で使用していました。背景には非常に高度な石材加工技術があるのが分かります。裏面にグラスファイバーメッシュを貼り、最後にレジンで塗り固め、その後研磨すると言う流れです。またエンジニアの技術により、薄い礫岩の天板でも丈夫にする裏技があるのでしょう。詳しい技術は企業秘密にするのが一般的です。

では、なぜあえてもろい礫岩を使用するのでしょうか?
イタリアの大理石と言えば白い大理石カラーラ。年々需要が増え値段はうなぎの上りです。非常に高価な石材となってしまいました。
しかし、イタリアにはカラーラ以外にも魅力的な石材は山の様にあります。このカラーラ一択のマーケーットをどうにか分散させられるかが、イタリア石材業界の課題です。

昔から教会の内装に使用されてきた、ロッソ・レーバントに注目し、デザイナーの手によって魅力的なプロダクトにすることで、石材の付加価値の再創造を試みているのでしょう。非常にヘビーで暑苦しい石目なので、使い方を間違えるとおじさん臭くなってしまいます。そこを、薄くすることで現代的なデザインに仕上がっていると言ってよいでしょう。その背後には先ほども言った高度な技術があってこそです。

今後もカッラーラ以外の様々な石がマーケットに登場してくるでしょう。
今後の観察が楽しみです。






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