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マゾ猫がずっと友達に少年院を出ていると思われていた話

むかーしむかし。これはマゾ猫がまだ夜な夜なお酒をのんでは、得体の知れない友人を作って遊び散らかしていたころの話。

マゾ猫ちゃんはクソオタク。興味をもったら何でも知りたい。


シャーロックホームズにハマったころは、食事も睡眠忘れてずっと本をよんでたら、一周回って本を読むのがめんどくさくなって、ページを破いて食べたところ、母親にビンタをして吐き出させられたくらい。

そんなマゾ猫、一回好きなことについて話すとまあしゃべるしゃべる。止まらない。サブマシンガン並みの連射速度で聞いてもない事を8月の真昼間並みの熱さでしゃべり続ける。歩く公害、いや口蓋。

そんなのでも友達はいい子ばかりだったもので、よくつけられていたあだ名は「先生」「教授」たまに「魔王」

ツナマヨという食べ物の存在も知らなかったわりに、まあまあ頭のいい子のポジションに、どっかり座れていると思っていたわけです。

マゾ猫はよく飲み歩いていた。

生粋の酒好き、酒と名の付くものはみりんでも飲みたいマゾ猫。
ちゅーるちゅーるあるちゅーる。肝臓酷使待ったなし。

歌舞伎町にあった行きつけのBAR、週三で行けばそりゃあもう顔見知り。
おしゃべり好きの人が沢山来られる、アットホームなBARだったもので、色々な人としゃべる社交場になっておりました。

そんな中、段々と年が近く、雰囲気の近い人たちで仲良くなって、約束をしていないのに集まるようになるなんていうのはよくあることで
良くしゃべる人たちとひょんなことから連絡先を交換することになった。
元々仲の良かった男女4人組の子達の中に、入れてもらうという形でグループLINEに追加されたマゾ猫。

グループLINEの名前が「いんかい」になっていた。

いーんかい? いやよくない。
平仮名で書かれていたもので、意図がつかめなかったマゾ猫はその場で聞いた。

マゾ猫「なんで”いんかい”なの?」
友達  「ああ、みんな”いんそつ”だからだよ」

いんそつ……。
院卒……。なるほど!
一人はかっちりしたスーツ、一人はザ・キャリアウーマンの恰好、一人はお嬢様っぽいいでたちで、一人は……Tシャツにデニムだったけど
みんな、しゃべる内容がお金の話や本の話、法律の話だったもので
この人たちは、大学院を卒業したとってもあたまのいい人たちなんだわ!!!!!!!!!!
なんて、高卒で即就職したマゾ猫は思っておりました。

こんな頭のいい人に認められて、学歴コンプレックスの煮凝りを常時食べているようなマゾ猫としては大変うれしかった。
それと同時に、マゾ猫は大学院なんて出ていないので(というかそもそも、当時まだ20歳だったし)
この事実は黙っておこう……と、それ以上”いんそつ”の話は触れなかったのである。

そんなある日のこと、またいつものBARに飲みに行った。
いつもの顔ぶれ……あれ?

一人足りない。

どちゃくそイケメンで、目力ぱっちり、二重でマゾ猫にも優しくて
ひそかに狙っていて、今日会ったらデートに誘おうと思っていたD君がいなかった。

マゾ猫「あれ、Dくんは?」
友達A「あー。今警察」
マゾ猫「えっ!!なんかあったの!?」

純粋なマゾ猫は、Dくんが事件に巻き込まれて警察に証言をしに行っていると思ったのだ。

マゾ猫「そりゃ大変だ!大丈夫かなあ……心配だ!」
友達A「大丈夫じゃない? 人殴っちゃっただけだし」
マゾ猫「ヒトヲ……ナグッタ?」
友達B「今回普通に出てこれんのかね?」
友達A「さあ? どのくらいやったかによるんじゃない?」

マゾ猫、殴るより殴られる側で生きてきたいマゾヒストだったので、話の流れが一切つかめていない。

もう一度言おう、一切つかめていないのである。

友達B「あれ、マゾ猫どうしたの?」
マゾ猫「……イヤベツニナンデモナイヨ」
友達A「俺たちも気をつけなきゃな~」
友達C「いや~。大丈夫じゃない? 前科ではないし」
友達B「あれ、そうなの?」
友達C「人の話聞いてないじゃんww院の時のは前科としては残らないよ~」

前科……院……。
マゾ猫、ここで気が付く。

”いんそつ”……!?!?!?!?!??!?!

マゾ猫「アナタタチハ、ナニヲ、シタヒトナノ」

来日したての和田アキ子みたいになりながら、マゾ猫は恐る恐る聞いてみた。
カタコトのしゃべり方テストがあれば満点が間違いなくもらえていた。

友達A「人刺した」
友達B「うーん、JKビジネスみたいなやつ?」
友達C「家入ったり、物盗んだり……いろいろ~」
友達A「で、マゾ猫は何したの? 少年院出てるでしょ」
友達B「やっぱ出た人ってなんとなく、雰囲気でわかるよねー」
友達A「何で入ったか当てよっか……詐欺の入れ子とか!?」

きゃいきゃいと騒ぐ友達たち。
日本一治安の悪いヘキサゴンみたいになっていた。

マゾ猫「あ……あはは……なんやろねェ……」

もう明らかに口数が少なくなるマゾ猫。
多分小刻みに震えていたと思う。

そんな生きるローターと化したマゾ猫に対して、話は別に深堀もせず、みんなはのんきにVR施設の話に移行していた。

その日はそつなく帰ったマゾ猫であったが、二日後
「ちょっと地元のお母さんが倒れたから帰るね。もう東京には戻らないと思うから、みんな元気で!」
なんてLINEをグループに投げて、その人達とはこれきりさよならさんかくだったのであった。

今思うと、過去は関係なく、楽しい子たちだったし、縁を切るのはよくなかったかもしれないなんて、潰れたバーの跡地を見て思うのだった。

ところで……少年院でてるっぽいって、何?


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