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命、在るものになりたくて(連載小説)

22
小説「命、在るものになりたくて」(全22話)をまとめたマガジンです。
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#中編

(22)そこにはいない

 私は、教師だった。  生徒に物を言い、導き、教える立場だった。  今とは違う生きかたをし…

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柴田彼女
2か月前

(21)ゆるされたい

 私の診察が始まる。案の定話の切り出しは医師からで、 「他の患者さんとちょっと仲よくしす…

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柴田彼女
2か月前
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(20)嘘について

 中に入ると、看護師がいつかのように私を廊下の隅に追いやる。 「前も言ったけど、他の患者…

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柴田彼女
2か月前
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(17)スイートスポット

 スーパーマーケットの、値下げコーナーでスイートスポットまみれのバナナを買った。ほとんど…

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柴田彼女
2か月前
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(14)おいしそうだね

 十二時になっても当たり前のように自分の番はこなかった。私は受付の女性に一言断って、病院…

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柴田彼女
2か月前

(13)すなおメンタルクリニック

 朝、着替え、カーテンを開け、顔を洗い、朝食を摂り、化粧をし、髪を整え、それから弁当を作…

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柴田彼女
2か月前
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(12)記憶が支配する

 あしたは病院で、診察時間は十一時半から。どうせ二時間は遅れるから、お弁当を持っていかなければならない。あしたはサンドイッチにでもしようか。棚からホームベーカリーを出し、強力粉や塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストなどを支度する。計りで適量を計測し、順番通りに入れる。捏ねるだけの操作をしてくれるボタンを押すと、ぎいん、ぎいん、ぎいん、とモーターが回り出す音が響いた。  しばらくして機械が止まる。蓋を開け、指先で生地を伸ばしてみて、薄く膜が張るのを確認する。再び蓋を閉めて、具

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(11)逃走

 午後一時過ぎ、PCを開く。スマートフォンに入れてあるSNSをこちらでも覗く。たまに何か…

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柴田彼女
3か月前

(10)薄暗い中の祈り

 リュックサックを定位置に片づけ、時計を見るともう十二時を過ぎていた。昼食は何にしよう、…

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柴田彼女
3か月前

(9)帰宅

 家に着いたころにはもうくたくたで、玄関では突っかけていたサンダルを揃える元気もなかった…

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柴田彼女
3か月前

(8)水の音

 肌によい成分でできた日焼け止めを分厚く塗って、薄手の白いカーディガンを着て、つばの広い…

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柴田彼女
3か月前

(7)丁寧な暮らし―4

 洗濯物を干す。ピンチに靴下やタオルを挟み、ハンガーにトップスを裾から通す。服が伸びたり…

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柴田彼女
3か月前

(6)丁寧な暮らし―3

 洗濯物は三日に一回、まとめて洗う。きょうはちょうどその日だったので、流れで洗濯機の前に…

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柴田彼女
3か月前

(5)丁寧な暮らし―2

 朝、起きて肌掛けをよける。床に立ち上がり、肌掛けを丁寧に布団の上で伸ばす。無臭の除菌スプレーを取り出して、肌掛け全体にかける。それが終わったら枕、ベッドのマットレスにも同様にミストを振りかける。最後に肌掛けを半分に折りたたんで、ベッドの足元のほうに寄せて除菌スプレーを元の場所に戻す。  パジャマとキャミソール、ナイトブラを脱いで、日常づかい用のブラジャーを装着する。もう一度キャミソールを着て、前日に準備していたアッシュ色のフレアワンピースに着替える。胸元から下着が覗いていな

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