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犬奥

私は動物が好きだ。
でもよく考えると、爬虫類や両生類はそれほどかわいいと思わないし、鳥類は目つきが好きになれない。
魚はコンパニオンアニマルというより食料に見えてしまう。
ということで、訂正。
私は哺乳類が好きだ。
 
でもなあ。
大型肉食獣とじゃれ合いたいとは思わないし、ハムスターみたいに意思の疎通が難しそうな生きものと友情が育める気もしない。
同居したいと思えるのは犬か猫、というところだ。
ただ、猫に関しては「友だちの飼い猫と遊ぶ」ぐらいで十分だ。
独特のクールさは魅力的だけれど、ちょっともの足りない。
そんなわけで、より正確に言うなら、私は犬が好きだ。
 
とはいえ、犬だって犬種によって、「好き」「かなり好き」「ものすごく好き」など「好き度」が数段階に分かれてくる。
そして「圧倒的に好き」なのが柴犬だ。
申しわけないけれど、柴犬と2位の犬種の「好き度」には数光年の開きがある。
なら、私は柴犬好きなのか?
 
うーん、どうだろう。
柴犬は最高にかわいい生きものだけれど、実家で一緒に暮らしていた柴犬、故・愛犬Jを超える存在には出会ったことがない。
そうか。
柴犬が好きとか犬猫が好きとか哺乳類が好きとか動物が好きとか、そんなのは全部、好感度を上げるための嘘っぱちだったのだ。
正直に言ってしまおう。
私が好きな生きものは、古今東西、天上天下、現在過去未来、愛犬Jだけだ。
 

すべての動物の中で愛犬Jだけを愛する一途な私であるから、当然、お気に入り武将のひとりは明智光秀だ。
日本史の教科書で彼の存在を知って以来ずっと、「信長にいじめられてキレちゃった人」「秀吉がギリ戻ってこられるタイミングで乱を起こしちゃったついてない人」「当てにしてた友だちや親戚がだれも味方してくれなかった人望のない人」と思ってきた。
でも、光秀は側室をもたなかったということを知り、一気に評価がかわった
(諸説あるのかもしれないけれど、私は自分の信じたいことだけを信じるタイプです)。

明智様は、一途で愛情細やかで心根のおやさしい方だったのだ。
どうでもいい武将どもが「側室をもつのは男の甲斐性だぜ!」なんて粋がっている時代、自分の価値観を信じて貫く、強い意志をもつ殿方でもあったのだ。
最高に素晴らしい漢じゃないか!


数年前、日本犬の展覧会、つまりドッグショーの取材に行った。
大規模な展覧会だったので日程が2日に分かれており、私が行った2日めは「小型犬の部」の開催日だった。
日本犬に限定した場合、「小型犬」と「柴犬」は同義語だ。
つまりその日は、「柴犬だけ」の展覧会が行われるということだ。
 
会場は緑の芝生が広がる大きな公園だった。
そこに、全国各地で予選を勝ち抜いた選りすぐりの柴犬がワラワラと集まってくるのだ。
東を向いても西を向いても、かわいい柴犬がいる。
いや、360°どこを見てもかわいい柴犬しかいない。
ああ、天国ってたぶん、こういうところなんだろう。
 
さあ、撮影しに行こう。
顔だちの整ったあのコにしようかな。
いやまて、クルンと巻いたしっぽがキュートなあのコもいいぞ。
ん? ムチムチしたあのコも捨てがたい……。

明智様には申しわけないけれど、やたらと側室をもつ武将の気持ちがよ~くわかった。
この広場は私の大奥、いや犬奥だ。
心から愛しているのはJだけど、
でもでも、あのコもこのコもかわいいんだもーん。
 
あの日の私だったら、
20人の妻をもったという徳川家康と、肩を組んで楽しく語り合えたと思う。

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