夏のサイタマガール
仕事相手と顔を合わせると、フーやれやれ的な雰囲気を醸し出しながら
「暑いですねー」なんて言い合うことが多い。
こんなときの私は、かなり背伸びしている。
かかとを上げて身長をごまかしているわけではない。
大人ぶっているのだ。
大人は夏の暑さをいやがる。
疲れるし熱中症の危険があるし、強い紫外線はシミシワの原因になったり頭皮をいためたりするからだ。
もちろん私も、ちゃんとした大人だ。
とくに仕事相手には、そのことを確実に伝えたい。
だから、暑いのっていやですよねー早く涼しくなってほしいですよねー、と
大人発言をしてみせるのだ。
でも本当は、夏が大好きだ。
春より秋より冬より、夏が好きだ。
早春より晩秋より初冬より、夏が好きだ。
晴れて暑い、というだけで気分が高揚する。
たしかに、暑いと疲れるし熱中症の危険があるしシミシワのリスクも高まる。
でもでも、そんなことよりワクワク感のほうが大きいのだ。
何にワクワクしているのかは、まったく不明なのだけれど。
冬の朝は、永遠に起きたくない。
もちろん中年なので、早い時間に目は覚める。
でも、寒いところに出ていく気にはなれない。
「私は人じゃない。布団なの」と、ガラスの仮面をかぶって布団になりきる演技の練習をするのが冬のモーニングルーティーンだ。
でも、夏の私は北島マヤではない。
目が覚めると、とりあえず起き出したくなる。
起きて何をするわけでもないけれど、寝ているのがもったいない気がするのだ。
私は、洗って干すところまでなら洗濯が好きだ。
でも、冬のベランダでの洗濯物干しはそれほど楽しくない。
頭の中には、1秒でも早く暖かい室内に戻るための段取りしかない。
このときのひらめきと思考力、素早く行動に移す積極性を仕事でも発揮できていたら、私は間違いなく優秀なビジネスマンになっていたはずだ。
でも、夏の洗濯物干しには思考力や素早い行動など必要ない。
ただ楽しめばいいからだ。
ベランダに出るだけで「おお、夏!」と踊り出したくなるし、
乾燥も殺菌もあたいに任せときな! と言わんばかりの強い日射しも頼もしい。
つい南沙織の気分になって、足拭きマットを干しながら
♪ 私はいーまー 殺菌していーるー
などと口ずさんでしまう。
恋をして生きることより、紫外線殺菌に魅力を感じてしまうあたりは17歳と50代の違いだろう。
夏への愛にあえて理由をつけるなら、私が埼玉県出身だからかもしれない。
名作映画・『翔んで埼玉』によると、埼玉県は晴天日数日本一で、夏の暑さも日本有数らしい。
さつまいも畑と団地の上に広がるサイタマブルーの夏空が、私の原風景なのだ。たぶん。
夏の青空を愛する女。
なんだか、ものすごくポジティブ&ヘルシー&さわやかなイメージだ。
夏と晴天への愛をひと通り語ったあと、相方のK氏に言ってみた。
「夏の日射しと青い空が好きなんて言うとさ、なんだかちょっと
“カリフォルニアガールでーす”みたいな感じじゃない?」
K氏の反応は、明らかに鈍かった。
海がないくせに、埼玉をカリフォルニアにたとえたことに違和感を覚えたのだろうか。
それとも、いけしゃあしゃあと「ガール」を名乗る私が許せなかったのだろうか。
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