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【インド映画】The Kerela Story(2023)

監督:スディープトー・セーン
出演:アダー・シャルマー、ヨーギター・ビハーニー、ソニア・バラーニー、スィッディ・イドナーニーなど
上映時間:2時間18分

2023年公開のインド映画「The Kerala Story」鑑賞しました。2023年度作品で9番目に興行収入が多かった作品です。動画配信サイト「Zee5」での鑑賞。

ケララ州のティルヴァナンタプラム出身のヒンドゥー教徒、シャリーニー(アダー・シャルマー)は同州のカーサルゴートの看護学校に入学した。学生寮のルームメイトはヒンドゥー教徒のギタンジャリ(スィッディ・イドナーニー)、クリスチャンのニマ(ヨーギター・ビハーニー)、ムスリムのアーシィファー(ソニア・バラーニー)の4人。

彼女たちはすぐに打ち解ける。4人で初めて外食にいくとき、唯一地元が近いアーシィファーの男友達二人と出会い、彼らとも仲を深める。帰り道に宗教の話になり、アーシィファーはイスラム教の教えを熱心に説く。それはアッラー(神)を信じないものは、異教徒であれ地獄で火に焼かれるという過激なもの。敬虔なクリスチャンであるニマには響かないが、信仰心のあまり強くないシャリーニーとギタンジャリは、その話に怖気つく。

その後アーシィフィーを除いた三人でショッピングモールに出かけた際、彼女たちはムスリムの男たちに絡まれ、暴行を受ける。傷心して帰ってきた彼女たちに、アーシィフィーは「そんなに肌を露出した服装をしているのがいけない。あなたたちもヒジャブを着るべきだ」と提案する。実はアーシィフィーは陰で属するISIS(イスラム過激派)に属しており、彼女たちをムスリムに改宗させ、シリアに送り込む計画を立てていた。

彼女の提案を受け入れ、シャリーニーとギタンジャリはヒジャブを着用するようになる。そして二人は前述のアーシィフィーのムスリムの友人と付き合うことに。シャリーニーの彼氏のラミーズは、避妊具をつけずに彼女との性交し、シャリーニーは妊娠する。するとラミーズとアシィーフィーは、シャリーニーにムスリムに改宗して彼と結婚すべきだと言う。もちろんすべては彼らの策略であるが、シャリーニーはラミーズの愛を信じて改宗することに。

この作品を観るにあたって、結構な予備知識が必要だと感じました。まずはイスラム教のルール。ムスリム同士での結婚しか許されていないことや、性的な欲求を刺激しないために露出度の高いヒジャブを身にまとい化粧など美を高める行為も禁止されていることなど。

そしてケララ州はインドの中でもムスリムの割合が約25%と、他地域と比べるとかなり多くなっています。そしてヒンドゥーが50%、クリスチャンが18%と、3つの宗教が割と拮抗しています。学生寮の4人は、まさにその割合を表したような構成です。

感想としては、作品を通してずっと怖い。ホラー的な怖さではなく、テラー(terror)の怖さ。でもこの怖さが肝要。この話は実話ベースで、彼女たちが本当に経験した怖さを画面を通して経験させることが、製作陣の狙いですので。怖さが高まるだけ、メッセージ性が強まる仕組みです。そういう意味ではこの映画は大成功だと思います。

ただ個人的には、ヒンドゥー教徒が被害者でイスラムが加害者という構図の映画が最近多すぎるなと。映画公開には政府の許可が必要で、現インド政府はヒンドゥー教至上主義のインド人民党(BJP)がトップに立っています。したがって彼らの許可が必要ということは、必然的にこういう流れになってしまうのかなと。

もちろんこの映画が捉えているのは実際に起こっていることで、この事実を伝えるのは非常に重要なことです。しかし宗教リテラシーが足りてない青少年などが観賞した際に、ムスリムは悪い人だとざっくりとした誤解も招きかねません。実際にはISISはイスラムの中でも超過激な一派で、通常のムスリムはむしろいい人多いです。悪いことをしたら地獄の炎で焼かれると信じられているわけですし、犯罪行為などはあまり仕掛けてこないのです。

じゃあなぜISISはテロ行為を行いうかというと、彼らは「ジハード(聖戦)」というイスラム教の教えを広めるために戦い、人を殺すことは、アッラーに対する最大限の献身で、今すぐに天国に行けるという超解釈をしているからです。これは宗教の善し悪しじゃなくて、どの宗教でも過激派はダメだということ。どの宗教でも過激になるほど全体のバランスを崩し、結果多くのことが犠牲になってしまいます。このことをちゃんと理解しておく必要があります。

怖さを引き立てる演出は見事です。恐怖心を駆り立てるBGMの使い方も良かったですし、やっぱアフガニスタンの光景って迫力があるなと。澄み渡る青空&雄大な砂漠と血のコントラストが、残虐さを際立たせます。

「The Kerala Story」はケララ州で実際に起こった話をベースに作られた、ISISのテロ行為の残虐さを伝える物語。エンドロール前に流されるケララ州の現状など知るべき情報も多いが、あくまでもISISは超過激派で、通常のムスリムとは分けて考える必要はあります。個人的にはもっと「バジュランギおじさん」みたいなヒンドゥーとイスラムの和解を描いた作品がみたいなぁ。

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