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「消しゴム顔」⑥ あるいはマネフィセント、練れる森の姫

 えっ消しゴム? その顔は一瞬だけど明らかに戸惑っていた。だが次の瞬間ニッコリと笑い、ありがとう! ちょうど良かった、これすごく欲しかったんだよ! 彼は大袈裟に叫び、みんなも取ってつけた笑顔で良かったね、と頷いた。私だけが身の縮まる思いをしていた。ごめんね、ほかの人みたいな見栄えのするプレゼントじゃなくて。過去とか誰かを消したいというつもりはないのよ安心して。
 昔付き合っていた彼に子どもが生まれて、そのお祝いの席でのことだ。招かれたわけでもなかったのになんで来ちゃったんだろバカなあたし。その上いつもの悪いクセが。
「その子幸せになるといいわね。肝心なときに消しゴムで困ったりしなければいいけど」
みんなの顔から表情が消えた。彼が心の中で世界中の消しゴムを買い占めろと叫んでいるのが聞こえた。どうかお願いだからそんな目で見ないで。あの時だって。初めのうちはとんがっていたけど、おしまいにはまんまるくおさまったのだから。

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