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噛ませ犬ごはん ①

 その頃うちには犬がいた。あれこれと物色しに近所のペットショップをのぞくのが日課であり楽しみでもあった。そこでは哺乳類以外も扱っており高そうな熱帯魚の水槽が壁面を覆っていた。そばに「エサ金」の札がついた桶があり中で金魚が泳ぎまわったいるのが見えた。
「これは?」
「ピラニアとか爬虫類のためのご飯ですよ」
ひどーい。
「まあ飼うために買う人もいますがね」
 私は大いに憤慨して帰宅してからその話を夫だのポチだのに披瀝した。だが夫はあまり驚かず、
「目立つところに置かないとか商品名を工夫するとかしたほうがいいかもな」
と答えるのみだった。
私は少し失望した。
「ところで今夜のおかずだけど」
「何でもいいよ」
と予想を裏切らない気のない返事だったのでホッとして、
「カマスが安かったのよ。塩焼きにするわね」
と続けた。そばでオスワリしていたポチも覚えたての人語スピーカーを動かして主人に倣って
「ボクモ、オカマセシマス」
と答えたのだった。

405文字

(食わせ魚ゴメン編)


たらはかに様のお題に参加しています。

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