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半分ろうそく ①

 地下室の銀の燭台に火を灯すと室内の様子がおぼろげに浮かび上がった。母の顔はいつもよりさらにやつれて老けて見えた。
「今日はパパとママの結婚記念日なのよ」
母は芝居がかった口調で宣言すると、半分近く溶けた四角いキャンドルに火を移した。意外だった。幼いころからずっと女手一つで育ててくれた母の口から『パパ』の言葉が出ようとは。母はさらに投げやりな口調で
「25年前のことよ。本当は結婚なんてしたくなかった。だけどお前がお腹にいたせいで」
と続ける。
「ママ、産んで育ててくれたことは本当に感謝しています。だから」
「だから何? その恩も忘れて私を捨てて出て行くのよね? 男なんて碌なもんじゃないわよ」
そう叫んで燭台をかざした先にあったのは。半分蝋と化したタキシード姿の「何か」だった。ひいっと声にならない悲鳴をあげると身体の奥が小さく同調した。タキシードは項垂れたままで片腕を持ち上げ母の襟首を掴みくぐもった声で呻いた。
「早ク逃ゲロ」

410文字

たらはかに様のお題に参加しています。

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