見出し画像

立方体の思い出 店の名編

 昔は地球も四角かったものだが。老人は琥珀色のボトルを傾ける。あの頃は両極面の正方形の対角線の二つの交点を結んだ線が地軸だった。すごかったな自転。急に明暗が入れ替わるんだ。地域格差が顕著で常に紛争だよ。あの頃から見れば地球も角がとれて平和になったもんだな。カウンターの隣の男がうなずく。ワタシは北極面から来たのです。小学校ではよくいじめられましたよ。ソロバンの珠の形まで赤道面の子どもと違うのですよ。立方体で指に馴染まないのです。そのハンデを乗り越えて珠をはじき続けた甲斐あって今ではあの形です。正四面体三角錐の氷がカランと鳴る。
「お待ち」
出されたサイコロステーキは球体だった。
おっ懐かしいな、ワタシ実は元ヤcube員でね。と一人の客が丸いステーキを頬張る。
その時ウオー!と歓声が上がった。

今はなき立方大学体育学部OB選手が捕えた打球がアーチを描いて観客席に飛び込むさまをプロジェクターがスクリーンに投げかけていたのだ。

410文字

「お呼びじゃなかったかな。立方体の思い出を語ればサービスしてくれるって聞いていたけど」三人の老人は苦笑して立ち去った。


たらはかに様の企画に参加しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?