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「アイドル状の物体」②

 トンネルを抜けるとそこは棒の国だった。降りしきる棒とともに昭和は遠ざかって行った。今年も棒の季節が訪れると子どもたちは棒合戦をしたり棒だるまを作ったりと楽しむのだろうが大人たちは棒かきや棒おろしに苦労するに違いない。せめて棒を眺めながら一句。男は目を閉じ虚空を思いえがく。ひらひらと舞い降りてくる何かが見えた。ひとひらの棒か。家族は冷ややかだ。まるで棒の女王のように。彼は孤立していた。棒が吹き荒ぶ山荘にひとり取り残されたかのように。
舞い降りてくる「何か」が徐々に形をあらわにする。あれは。そうだ思い出したぞ。あのアイドルだ。
「ボウ子!」
と腕を差し伸べるとそのアイドル状の物体は微かに首を傾げてあどけない微笑を浮かべてフワリと気化してしまった。

「お前ももう三十六だな。恋人とかいないのか? 父さんのことなら気にしなくてもいいんだぞ」
心配しないわけにいかないから困っているんじゃないの健忘症の父さん。

400字

たらはかに様の企画の裏お題に参加しています。

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