見出し画像

誘惑銀杏 ①

「探偵社からの報告書によれば何の心配もないそうだ」夫はまるで他人事のようにつぶやく。私は気が気でない。可愛いわが子はどんな女とつきあっているの? 

 あの子はイチョウ物件と呼ばれているらしい。秋になると葉を一斉に黄葉させる紙幣樋口イチヨウのように? 地味で平凡でちょっとクサいけどそれなりに実のある男? 全く人の子を馬鹿にしているわ。

「まあ待ちなさい、イチョウとは東京都の木だ」
「でもあの子、都には採用されなかったわ」「良し悪しだな。東京といっても島嶼部に配属されるリスクもある」
たしかに。でも三多摩地区の市町村に決まったのだ。
「自然豊かな環境で転勤の心配もない」昭和記念公園のイチョウ並木は本当に美しい。その環境での生活を維持できるものね? 
「だがアイツは山梨にマンションを買った」
ほほ、いい気味。で、何か心配ないの? 

 そのときは知らなかったのだ、夫が都知事に立候補するつもりだとは。イチョウ物件狙いの女に誘惑されて。

410文字

フィクションです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?