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「感想文部」容疑者の過去編

「感想文が面倒くさいのは、指南書で指摘されているような、どう書けばいいのかわからないとか、何を書けばいいのかわからないというのは本当の理由じゃない。むしろ逆で何を書けと期待されているのかがミエミエで、それに沿って書かねばならないという呪縛に抗う気持ちが心に生じるからなんだ」彼はボソボソ語り始めた。
「例えばオレが女だとするだろ? 世間は女子に可愛く明るく気がきく存在であって欲しい。だがオレはそうじゃない。なのにそんなフリをすることは偽装だ。嘘つきにはなりたくない。つまり、」
 語り続ける彼をよそに我々は手を休めない。「『ごんぎつねを読んで』−銃は規制されるべきか?か。『こころ』−3P(ページ)で挫折しました。うーん、いまいちだな」同僚は眉間にシワを寄せる。
「もっといかにもワルで自己中な感想はないのか」

 我々は感想文部の人間だ。彼の過去の感想文集のなかから反社会的人格の萌芽が読み取れる一節を探し出すのが仕事だ。

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