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理科室まがった ③

「あなた守衛さんですか。こんな時間にここにいるとは」

「忘れ物をしてしまったんだ」

「なるほど。教室を移動するたびに必ず誰かが何かを忘れていきます。私の場合は心でした。私の心は盗まれて今あの人の所にあるのです。あの人の曲線は元から奪われていました。彼女は直線だけのト音記号だの、イントロだけの楽譜みたいなものですよ。頭しかない彼女はいつも私を羨んでいました」

「気の毒に。実はぼく、自分が思いついたメロディーを奪われてカッとなったんだよ。それで消し忘れた指紋とか、まがってしまった凶器が気になって証拠を消しに来たのさ。それが済んだらデッサン用のミロのビーナスの頭部のそばの心臓はちゃんと人体模型に戻してあげるからね」

 でもまさかそこから足がつくなんて。

『あやま り、かしつ』
『まが』
『‥った』
『まが、さしちま、った』
『彼が』
『さした』

 模型の唇は微かにふるえていたという。そして脊柱のS状に沿って隠した刀も見つかってしまった。

410文字

 人体模型は心臓を戻してもらった恩を忘れませんでしたが、理科室がまった、と。

たらはかに様のお題に参加しています。

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