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「しゃべる画像」追憶編

 鏡を見ながら自画像を描くという授業があった。全員の作品が壁に貼り出された。先生が「みんな実物よりもかっこよくてかわいいじゃないか」と笑った。ここは夜の教室だ。月の光が寂しく差しこんでいる。
「ねえねえ、たまには席がえしたいよね」
「アハハお前ヤマモトの隣を狙ってるな」
「違うってば。眺めが不公平だから言ってるの」
 どうやらしゃべっているのは画用紙に描かれた絵たちのようだ。
「それはそうとタナカくんの姿がないよ?」「へっ? そんなやついたっけ?」
「ひどーい」
「ほらアイツだよ、みんなで靴隠してからかったじゃん」
「今度は絵をはがしたの?」
「まさか」
「キミたち、そんなことをしては駄目だよ」
あっ、と誰かが声をたてた。
「どうして自画像描いていない先生までここにいるのかな」

そのとき田中ヒロシの電話が鳴った。
「えっぼくの絵が?」
奇跡的に修復されて記念館に展示されるというのだった。あの学校で描いたかも知れない、思い出したくないけど。

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