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「動かないボーナス」⑤ あるいは報奨と報恩

 私の趣味は登山だ。ある日冬の山道を歩いていると罠にかかったボーナスがいた。気の毒になって助けてやったが、どうやら足を傷めて動けないようだ。吹雪になりそうなので小さなテントを張りそこに二人で避難した。翌朝山小屋ができていた。食事もある。ボーナスはお返しがしたい、ただし絶対にこちらを見ないでくださいという。それから私の預金通帳を渡せという。怪しいと思ったが言われた通りにした。背後でキー、ガタンという音がした。返された通帳を見るとまとまった金額の数字が記載されている。半年後また通帳を渡せというので、今度はこっそりのぞいた。なんとボーナスは人間の女の姿になってプリンターを操り記帳していた。
「なんだ、お前人間じゃないか。たとえこの金がインチキだとしても、とにかく里に下りて暮らそうよ」
すると女は答えた。
「私はボーナスの精なのです。この冬山を動くことはできません」
「なんで?」
「だって、冬の季語なんでしょ? ボーナス」

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