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「消しゴム顔」①

 差し出された画用紙。鉛筆で黒く塗りつぶされたその表面をその消しゴムでこすってみた。すっと光が差したように白い線が引かれる。ああ、これはいいかも。額、鼻筋、頬などの白い部分が浮かびあがる。消しゴムの這った跡からぼんやりとひとつの顔が浮かびあがる。これは誰だろう? 誰かに似ている。まさか母だろうか。いやもっと若い。腫れぼったい目もと。苦しげな眉根。食いしばった口もと。
「やっと見えてきたのね」その声にはっと振り返ると女医らしき白衣の女がいた。
「これは誰ですか」
「もはやこの世にいない人よ」
消しゴムは黒く小さくなっていた。
「ね、素晴らしい出来栄えでしょ。なかなかこうはいかないわ」
鏡のなかで私は何と、ぱっちりとした二重瞼の美少女に生まれ変わっていた。
「この消しゴムの香りを吸い込むと、だれでも美少女の幻覚を見ることができるの」

「あのう、自分はここに誰でも美人画が描ける消しゴムを試しに来たんですけど?」
俺は戸惑っていた。

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