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三分豚足①

「まだ半分(30秒)だ」ろ? うそ、くー、これだったのか、陸上部だったと言ったら即刻採用が決定した訳は。逃げ足の速さを買われただけだったとは。とにかくオレは必死で走り続けた。
「ゴール!」
先輩がストップウォッチを大袈裟に握りしめる。さて三分間の走行距離は? 街中から山の中腹までの経路。チラシには豚足三分とプリントされる。駅から程よい隔たりを保って走行音やアナウンスなど絶対耳に届かない物件。
やれやれインチキ不動産商売の片棒を担いでしまったぜ。
ピピピ、と電子音が響いてカップ麺の出来上がりを知らせる。
『駅近。豚足麺(三分)にお湯を注いでさあ食うぞ、と思ったらすでに駅!』
契約書にサインを済ませてしまってから三分とは蕎麦粉の割合だったと知っても後の祭り。
そんな『メゾン・トンソン山腹』に入居者はまだない。

ピピピ。目覚まし時計のアラームが鳴った。
盗豚にも三分の理とはいえトンソク勘定したら割に合わないよなあ、この(社員寮)は。

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たらはかに様の裏お題に参加しています。

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