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「1分しまうま」⑤ あるいは縞のないシマウマの子

「やあ、ひさしぶり、」
そこにいたのはもう二度と会いたくなかった相手だった。
「兄さん」
 兄弟のなかでただひとり僕にはシマがなかった。そのことでどれだけ非道な仕打ちを受けたことか。それでも母だけは僕を可愛いがってくれた。孤立しがちだったぼくを常にかばってくれた。やがて僕は自分がサラブレッドのDNAを持つ名馬だと知りその世界で名を上げていった。もうイジメるやつもいない、はずた。
「兄さん、元気そうだね」僕は警戒感を隠した。「おまえの活躍はきいている」
兄は言葉を切った。
「金かい、兄さん」
兄は一瞬身構えた。僕は自分の言葉を後悔した。「とにかく来てくれ。母さんが」
「母さんがどうかしたの」
「意識が混濁している。お前の名をずっと呼んでいるんだ」

 本当は知っていた。自分のせいで両親がうまくいかなくなったこと。
ごめんねみんな。僕は全身にシマを塗った。母さん僕だよ。シマ、ちゃんとあるから。心配かけてごめんね。

 1分後、母は旅立った。

410文字

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

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