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二次会デミグラスソース

 嫌疑は晴れたのか夫は戻ってきた。お帰りなさいと言いかけ背後の男の姿にはっとする。鳥打ち帽にパイプ、ケープ付きチェックのジャケットだ。探偵? 失礼しますの言葉もなくリビングに押し入る。壁をステッキで示し、
「なるほど。こいつがその古びた血痕か。えらく派手に飛んでますね。日頃の悲鳴や物騒な物音を近所の住人も証言していてあんたは圧倒的に不利な立場に置かれた。しかし鑑識の結論は血痕でなくデミグラスソースだったとは」
あのときすぐにただの夫婦喧嘩だと言えばそれで済んだのだろうか。
「そんなことよりお前、帰ってきたのか」
夫は探偵にかぶれて出て行った息子に穏やかな笑顔を向ける。
「ああ、たまには三人で母さんのビーフシチューを囲むのも悪くないからな」
私はビーフシチューの大鍋をあたため直しにかかる。
 まだまだね探偵さん。あんたが出ていって気まぐれでペットに子牛を飼い始めたのよ。暴れられてどんどん手に余って。あの子にじかい生涯だった。

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たらはかに様のお題に参加しています。

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