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失恋墓地

 俯いたまま無言で白い布に包まれた箱を抱きしめた。
「ごめんね。いまはどこも一杯なんだって」
抽選でハズレを引いた。代わりに失恋墓地があてがわれた。なんでなの。お兄ちゃんは失恋の経験さえないうちに行ってしまったのに?
「3年待ちだって。通常の墓地は」
果たしてそんな先までこの世界は残っているのだろうか。泣き疲れホテルのセミダブルに横たわり一つだけ点った小さな光に目をこらす。窓の外では無数の弱いともしびが音もなく飛び交っていた。たとえ短い恋の日々であれ、生きながらえてさえいれば。どんなにか楽しかっただろうに? そのあとは街角の暗がりで煙草をくゆらせて声がかからなければ、その火を人家のゴミ箱に投げ込んでしまおうか? 嘘よ。たぶん私にそんな日は来ない。飛ばない火はただの土蛍だ。うぬぼれやさんのメイジーの初夜のイルミネーションがお似合い。それにしてもどうして失恋墓地なのかしら? お兄ちゃんは恋でさえ知らないままだったのに。

408文字

淡いみどりの光の粒がひび割れたハートの形につどっていた。

たらはかに様のお題に参加しています。

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