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「涙鉛筆」番外編

 入学準備の買い物は父と一緒に行った。奈美の父は仏蘭西の何とかいう俳優に似たオトコマエだと誰かに言われた。二人でドレスアップして百貨店のステーショナリーコーナーに行くと信じられないほど沢山の鉛筆があり目移りした。奈美はすかさず、ピンクと水色のラメのお洒落な鉛筆に目をつけた。
「あれが欲しい」
その水色は真珠に映る明るい海を思わせた。金文字で『NAMI』と刻んでもらう。

 だが実際には教室でそれはひどく場違いだった。他の子たちは緑や深緑や山吹色や小豆色のいかにも鉛筆らしい鉛筆とか子どもらしいキャラクター柄の物を持ってきた。教師の咎めるような視線とか同級生の皮肉もしくは批難を浴びることもあった。とりわけ実の母からチクチク嫌味を言われ奈美は憂鬱になった。

 大丈夫よ。奈美は泣かない。ちゃんと12本使いきるから。ピンクじゃなくてブルーを選んだの。鉛筆を使うところまでたどりつかなかったお兄ちゃんのためお父さんの流した涙の色を。

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