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「株式会社の音」

 父の記憶ですか? 正直言ってほとんど残っていません。母はよく新聞が日経なので読みやすい記事がないとこぼしていましたね。それから父はよく短波放送をラジオで聴いていました。株式市況です。案外覚えているものですね。本当は忘れたかったのに。父は退職後、人が変わってしまいました。実直が取り柄の公務員でしたが。証券会社の担当者の電話番号だけは忘れませんでした。私や母の顔さえ忘れていても。私は株取引が嫌いです。株価の上がり下がりに一喜一憂していた父。この先子どもができても、株にだけは絶対手をだして欲しくない。それが本音です。
 私は岳父となるはずのの人物の前で一気にまくしたてた。
そのとき。何やら騒音が響いた。記念すべき両家顔合わせの式に乱入者があったのだ。
「俺だよ、俺。お前の父親だよ。苦労かけてすまなんだな。もう大丈夫だ。金のために我慢してそんな女を選ぶことないぞ。俺は一山あてたんだ、大金持ちだぞ!」

「株、式外者の音」より

410文字

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