見出し画像

ポケット大増殖②

 子どもはランドセルを開けて中の袋から給食のパン屑を公園のハトに与えた。
「どうしてそんなにつまらなそうなの?」
パンのミミをついばんでハトがたずねた。
「その袋『お年玉』ってかいてあるね」
今年の初めにもらったんだ。パパとママとじいじとばあばとじいちゃんとばあちゃんから。
「なるほどキミは6つのポケットに恵まれた立場なのんだね」
そんなのつまらないよ。今にぼくはパパに誰のおかげで飯が食えるんだと脅されたり、人より余計に怠け心がわいてきたり、じいじたちに詐欺師みたいな電話をしたり、やがてはパパやママの介護で悩まされて、でも死んでしまったらボクの生活費もパーになってしまうよと泣くようになるかも知れないじゃないか。考えただけでぞっとしていたんだそんな人生。
 それだけ言い終わると子どもはベンチに並べてあった6体の遺品でポケットをいっぱいにして立ち去った。残されたハトは白いヒゲの老人に姿を変えて彼の行方を祈るように見つめた。

408文字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?