罠の中の地味に怒る 昔話編
親に売られて遊廓の太夫と呼ばれて人の目に罠にかかった鳥一羽ふとしたはずみに雪の夜外の世界にかけだして平原の落とし穴なかただ一人誰かいるのと問われれば目元涼しげなる若者が
あれこそ恋という名の罠でした。貧しい陋屋にあの人と二人。それでも暖かい暮らしでした。子どもは増えてあの人ひとりの稼ぎではもう追いつきません。それでも楽しいわが家でした。ある日畑仕事の合間に通りすがったのがかつての馴染み客の大旦那さま。「可哀想に」と高価な防寒着を下さいました。遠慮したのですが。子どもの飢えと凍えには代えられず一時お付き合いしました。噂は広がりお大尽さまが次々と防寒着を持ってお見えになりましたよ。それを手放して暮らし向きもかなり良くなりました。だけどとうとうあの人に知られる日がやってきました。
あの人は怒ったでしょうか、わたしは開き直ったでしょうか、いずれにせよこの地味な暮らしの地味な怒りでしょうね。恋という名の罠のなかで。
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