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失楽園ぼっち 流人編

 都すなわち楽園を追放された孤独なお方がこちらにおいでになるんですって、お気の毒なことだわと地元の娘たちは色めき立ち、親は釣竿のリールに油をさして待ち構える。まてこの前テレビを見ただろう、ロクなことにならないぞ。ひなびた田舎で静かに暮らしているのにわざわざ金の林檎を投げこんでくるとは、など警心丸出しの声もあった。だがやって来た男は予想外のキャラであった。愛想がよく、笑うと頬にくぼみができたので女たちは「エクボっち」と呼んだ。子どもたちには「メタボっち」と親しまれた。男は怒りもせず一緒になって腹を揺すって笑った。つまり「極楽トンボっち」であった。人々はあれが本当に源のなにがし様かね? と囁く。すると男はのんびりと答えた。いかにも私はミカドの血を引いている。母は桐壺っち。初恋の人は藤壺っち。あ、これは義母っちなんだけどね。不倫とはけしからんだと? 野暮っち言うなよ。本が売れればいいのさと男は一人で寂しく微笑んだ。

410文字

たらはかに様の裏お題に参加しています。


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