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告白雨雲 少年編

 扉の向こうで分厚い鉛色の塊りが低く垂れこめてずっくりと水気を放ち、いまにも滴らせんと待ち構えるのを目にするや僕は目の前が真っ暗になりました。アイツです。ママの客の外套のようです。低く垂れ下がっています。僕は気づかれないようにそっと扉の陰にかくれました。玄関先には濡れた黒い蝙蝠傘が所在なさげに置かれてありました。おまえずっと出番を待っていたんだね。話しかけても返事はありません。僕は彼の柄の部分をぐっと掴みます。仕込んであった刃の形を指で押しつけるとバン!と音をたてて発射します。あっ、と部屋にいたママが叫びました。お前いつからそこにいたのと言いかけましたが、僕は答えずにさしました。ぱっと壁に飛沫が飛び散ります。やめて!とママが叫びました。僕はまたさしました。覚えているのはそこまでです。もうこれ以上告白することはありません。そのまま僕は蝙蝠傘を手にポツリポツリと雨の落ちはじめた街路を駆けていきました。

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