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「1分しまうま」②

「ママー、スティックのり知らない? 封筒シールになってなくて」
と姉が言えば弟も、
「母ちゃん、ハサミどこ? ここんとこ切ってよ。靴下両足が繋がったまんまなんだけど」
と甘える。
 なんだかうちの家族全員が片付けが苦手で母に頼っているみたいに思われるかも知れないけど、その通りなのだ。特にこうした文房具類は、すべて母が管理している。
「だいたいね、あっちにポイ、こっちにポイと、あらゆる場所に鉛筆や消しゴムが転がっているような家には住みたくないのよ」
 母は『1分仕舞う魔』だった。家族に問われて取り出す文具を1分後には片付けてしまう。なので、それらがどこにあるのかはもはや母以外には永遠の謎なのだ。
 ある日のこと祖父が
「なあトミコさん、わしがバアさんに貰ったブランド物のボールペン知らんかね?」ときいてきたときはさすがにこう答えた。
「すみませんねえ、1分探しましたけどとりあえず今はこちらをお使いください。 ゼブラでよろしくて?」

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たらはかに様のお題に参加しています。

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