「動かないボーナス」②

仕事をさぼって海を見ていた。波の音が心地よい。どこからか突然ラインが来た。
『動かないボーナス』
何だろう。今年もボーナスは例年どおり増えないと？　ため息をついてドリンクのフタを開けた。波飛沫のような泡があふれる。
『動かないボーナス』、か。
見知らぬ男が私のスマホをのぞきこんでいた。なんだろうこいつは。男には違いない。年齢は全く見当がつかない。すると不意に彼は泣き出した。なぜあんたが泣く。泣きたいのはこっちなのに？　「それは暗号だな」
暗号？　
「動」「か」「ない」
つまり「ない」動⇄静＋か＝シズカということだ。これは私の愛妾の名だ。「ボーナス」とは、坊、生す、つまり男の子を産んだという意味だ。
は？　あんた誰だ？　
私の名は源九郎判官義経。お前の先祖だ。やはり静の子は生きていた。だが仕事をサボる腑抜けであったとは。

波の音が心地よい。ラインのメッセージは消えていた。空き缶をクシャリと潰して立ち上がる。前向きに生きるために。

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