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秘密警察を宣伝してみる ③

 この熱いスープの赤は辣油だろうか。豆板醤とも少し違う。芝麻醤と鶏がらスープそしてベースの豆乳のベージュには明るい赤がよく映える。肉味噌。白髪葱。
「サンタンだな」
えっ違うよ、たしかタンタンでは? 坦々麺は擔擔麺とも書いたそうだ。確かに惨憺に似ていますけどね。ラーメン屋のカウンター席でスープの大鍋を覗きこみながら、隣の席で丼に向かう男と言葉を交わす。
「こう見えて私は一世を風靡したのです」
マジか。そりゃ自分だって。
「政界進出。そして秘密警察ですよ」
羨望のあまり眩暈がした。なんと私が欲して手に入れられなかった政界だ。
「権力を掌握したのですよ。ですから警察なんて思いのままですわ」
その声は翻訳スピーカーから発せられて幾分不自然だが本人の心からの発語であることはよく伝わった。ふんだ。あんた口髭に肉味噌付いてるよ? いやそんなことより自己宣伝とただの宣伝は天と地ほども違うんですからね。蓋が開きかけた釜のなかで反論してみる。

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たらはかに様のお題に参加しています。

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