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「ジュリエット釣り」埼玉編

「おっかさん、どうして露見男さんが婿じゃいけないの?」
芋農家の娘は口を尖らせた。
「あんな吊り目の男と吊り目のあんたじゃ生まれてくる子が気の毒だからさ」
確かに二人ともキツネのように吊り目だった。そんな理由とは理不尽であった。ここは武州川越、小江戸と呼ばれた町だ。寛延4年(1751)川越でサツマイモ作りが始まった。天保期には江戸の焼き芋ブームと相俟って川越産の芋はブランド品として注目されていた。娘の家はそうした農家であった。ある日恋仲の露見男が
「なあ新河岸から舟運で江戸に出ようぜ」
と誘った。
「いいけど。何で皆ウチらのこと反対するのかしら」
二人は舟から釣り糸を垂らし芋を餌に魚を釣った。
「オレらイトコ同士らしいぜ」
喜多院の西の出世稲荷神社が京都から分祀されたとき付いてきた狐の子だというのだ。娘は答えず
「どうして栗より美味い十三里なのかしら。ここから江戸まで十里あまりよ」
男は笑う。
「そうだな。釣りよりジュウリエットか」

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