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運試し擬人化 ④

 生まれ変わってもあなたのお側にいたいという願いはかなってこの年の暮れもあたしたちは二人で街の片隅のファストフード店のいつもの席で過ごしている。彼はガサガサの新聞を眺めたりチラシの裏に小説を書きつけたりしている。本当は二人でお手軽イタリアンに行きたいのだけれど彼は頑としてこの店に居座る。もちろん理由はわかっていた。
「のう、お市よ。越前蟹の美味い季節じゃ。わしも食してみたい」
あたしに話しかけているのか書きかけの小説の台詞なのかはわからない。大人しくハイと頷く。代わりなどいくらでもいるのにお役目はいつもあたしだ。いいえもしかして彼の従者はもはやこのあたししかいないのかも知れない。
「おぬしは験が良いのじゃ」
彼は優しい目で応える。
あたしは爪を立ててかきむしる。彼はうめき声をあげる。二つ目。
「やったあ! 五百円だあ! カニコロバーガー食うぞー」
一番近い販売店で行列していた人の目も構わず彼は全身銀カスまみれで咆哮した。

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たらはかに様のお題に参加しています。

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