見出し画像

「涙鉛筆」①

 その文具店は小学校の裏門のそばにあった。よくある話だが店番のおばあさんは耳が遠くてボンヤリしているともっぱらの噂で、クラスのワンパクどもが黙って品物を持ち出していたらしい。あるときふと気がついた。店の名前が「波田文具店」というのだ。クラスメイトの波田くんと関係があるのかな。波田くんはすごく真面目でおとなしい子だ。あるときガキ大将がボクに
「文具店から鉛筆とってこい」
といった。ボク以外の奴にも命令している。かなり悩んだすえ、地元のえらいお坊さんに相談した。
「あの店の鉛筆は特別なのじゃ。粗末にすると大変なことになる」
本当かどうかわからなかったけど
「波田鉛筆は、雪舟の涙で作られたんだってさ。盗むとネズミの大群に襲われるらしいよ」
と出まかせを言ってガキ大将をとめた。

 あれから20年。波田とは家族ぐるみのつきあいだ。彼の留学先はペンシルベニア大学で(近いのかどうか知らないけど)一緒にディズニーランドに行こうと誘われる。

410文字 

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?