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「消しゴム顔」⑤ あるいは日和見な神

 その世界を支配するカミには四つの顔があった。カミは神でも上でもなく紙である。カミのお社の入り口には『けしごむがお』と書かれた鳥居がある。
 南の顔を南の住民が訪問してお供えをして
「紙様、北の土地をください」
と祈りをささげた。
「よかろう」
カミは紙に書かれた境界線を消しゴムで消して上にずらした。次の日、東の顔に東の住民が参拝しお金を奉納し
「紙よ、西の土地を我々に」
と祈祷した。カミは地図に消しゴムをかけ、新しい線を引いた。カミの息子がたずねた。
「父ちゃん、オレら、こんなテキトーなことしてていいの? お社狭いのにもう貢ぎ物やら生け贄でぎゅうぎゅうじゃん」
すると父なるカミは答えた。
「仕方がないのじゃ。わが一族はあいつら四人に祭り上げられて、ここに閉じ込められた。それ以来争いごとの種をすべて引き受けるハメになったのじゃ」
息子はまあそれも悪くないか、と思った。そしてあの鳥居の横書きは右から読むのだと気づいた。『拝む御四家』

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