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「動かないボーナス」①

 その日社員に茶封筒が配られた。社長からの手渡しだ。髪より薄い。言葉より軽い。あーあ。パートのアケミの視線に気づいた。その目は「もらえるだけいいじゃん」と言っているようだ。
 帰り道、人気の無い裏通りを一人で自転車をこいでいると背後から何者かが近づいてきた。振り返ると警邏中の警官だ。少なくとも自分にはそう見えた。
「君、待ちなさい」
呼び止められでブレーキをかける。相手は荷台に手をかけて、
「今入った情報だ。爆薬を仕掛けられた自転車がある」
私はギョっとして思わずサドルをおりた。警官はすっとまたがると、ガンガンこぎはじめた。私のカバンを前カゴに乗せたまま。
「あ、待てよ!」叫んだが遅かった。

「で、盗られちゃったというわけね」幸い財布は身につけていた。だが明細書の入った茶封筒は。アケミはにわかに信用できないと言いたげに監視カメラもない場所だったのよね、とため息をついて前回から動きのない私の賞与額を記帳した通帳を取り出した。

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