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小判食え ①

 玄関先で男がアタッシュケースを開くとそこに丸い菓子が並んでいた。今川焼きだ。
「美味そうでしょう、大判焼きです」
「母は上方の出身で回転焼きと言ってましたね、ほら朝のドラマでヒロインが和菓子を作る話でも、」相手は遮るように
「地域ごとに100種類以上の異名を持つ『大判焼』に全国区の名称として「小判焼」を採用しようという動きが高まっているのです。諸事情により小判サイズに縮小されてしかもお値段は据え置きという苛酷な仕打ちに対する庶民の怒りの声です」男は小判鮫の如き狡猾な目つきで「それに伴いお宅の小判の価値がゼロになります。今のうちにこの大判焼きに交換しておくべきです」と熱心に勧めてきた。それは困る。私は急いでありったけの小判が保管してある地下室に男を案内した。
「今川焼きを渡しなさい」
「大判焼きですが」
「ほれ、小判ならばここにあるわよ。全部くれてやるわ」地下室に鍵をかけた。
「あの私の食べ物は?」
「今川焼きなら私の物よ」

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たらはかに様の裏お題に参加しています。

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