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「ポケット大増殖」③

「おはよう!」
遅刻気味だったけど元気よく教室の戸を開けた。ごく普通の朝だ。その瞬間までは。ホームルームが始まっていてボク以外みんな着席していた。黒板には「スマホについて」と書いてある。先生が「遅いぞ」とボクに注意して言葉を続けた。
「さて山田君のスマホが紛失したのです。先生はとても残念です。不本意なことですが、これから皆さん一人一人のポケットを確認することにします」
ざわめきが広がる。ポケット?カバンや机の中じゃなくて? そのとき初めて気がついた。誰もカバンなんて持っていない。机には収納部分がない。その上クラスメイトたちのおなかにはそれぞれポケット状の切れ込みがある。耳はないが手は丸く体は青色だボク以外は。
「先生、山田くんのスマホならボクがもってます。きのう拾いました」
いつのまにか発生したおなかのポケットから取り出すと差し出す。

「どうだったポケット大増殖世界?」
「ちょっとこれ返してくる。山田のだったよ」

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