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手に汗握り 血沸き肉躍る戦略シミュレーションマンガ「ドリフターズ」

時代や国を超えた歴史上人物が戦ったら……歴史好きなら1度は考えた事はあるでしょう。

「ドリフターズ」は歴史上人物の考察だけでなく、戦略や陰謀を張り巡らす様子は、私たちが経験した事のない「戦争」の世界が見えてきます。

綺麗ごとだけではない世界を垣間見ることで、平和な日本で日常を送るだけではけしてみえてこない「現実」を体験するような感覚になります。

そんな過酷な世界を覗いてみたい人に、オススメできるマンガです。

「ドリフターズ」のあらすじ

1600年関ケ原の戦いの時、西軍にいた島津豊久は、伯父である島津家当主の島津義弘を逃がすために「捨てがまり」と呼ばれる自己犠牲作戦を決行します。

単身で敵に立ち向かい自身がボロボロになっても、伯父が逃げる時間を稼ぐために止まりません。

「薩摩に戻った伯父は体制を立て直し、必ず徳川家康を討ち取る」と信じているからです。

史実では、島津豊久はここで亡くなります。

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しかし、豊久は重傷を負いながらも敵の大将を探してさまよっているうちに、空にはドラゴンが飛びかい、魔法が使われているファンタジー世界に迷い込みました。

気絶した豊久を介抱したのは、関ケ原の戦いより20年近く前に亡くなっているはずの「織田信長」と、さらに400年の前にあった源平合戦の勇士「那須与一」でした。

彼らのように生死がハッキリしない、あるいは死体が見つかっていない人物がこの世界に召喚されていて、「漂流者(ドリフターズ)」と呼ばれていています。

三人は成り行きで、人間の国「オルテ帝国」に虐げられているエルフの村を開放すると、その勢いで「国盗り」を開始しました。

ところが、北方では「廃棄物(エンズ)」と呼ばれる、人類や世界に怨みを持ったまま亡くなったはずの歴史上人物が集結し、この世界の人類を滅亡させようとモンスターを率いてオルテ帝国に侵略しようとしていました。

定番の人物から意外な人物まで登場!

漂流者や廃棄物として登場する歴史上人物や、そのどちらでもない陣営、あるいは過去に召喚されていたと言われている人物は、それぞれがビッグネームの有名人です。

主人公チームの「織田信長」を始めとして、廃棄物の「ジャンヌ・ダルク」や「土方歳三」、中立派の「源義経」、物語が始まる50年前に現れてオルテ帝国を作ったと言われる「アドルフ・ヒトラー」などは、歴史に詳しくなくても知っている人物でしょう。

加えて「織田信長がいるなら、あの人も……」というような人も登場します。


また誰もが知っている有名人というわけではないですが、歴史好きなら名前を聞いた事がある人物も多数出てきます。 

コアな歴史好きは単行本の表紙裏にある本編に出てこないけれど、アイデアだけがある「漂流者」と「廃棄物」が紹介されているコーナーがイチオシです。

まさに私の推し時代の人物が出て来た時は「本編に登場したら、どんな活躍をしただろうなぁ」と想像するだけでワクワクします。

彼らの性格や見た目はアレンジが加えられていますが、作中に少し出て来る逸話は史実を反映しているため、歴史に詳しくなくても知るきっかけになる作品です。

緻密な設定と濃厚な絵柄の骨太なストーリー

平野耕太さんは陰影を強調した絵柄や、独特な台詞回しで有名な作家で、この「ドリフターズ」でも顕著に表れています。

残酷な表現も多く、一部の人にはトラウマを刺激してしまうような過激な描写もあります。

しかし、ただグロテスクなシーンを見せているのではなく、「戦争というものはこういうものだ」という現実を描いているように思えます。

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戦闘シーンだけでなく、登場人物による作戦立案シーンや、交渉事のシーンも丁寧に細かく見せる事によって、「その結果こうなる」ということに納得させられ、また作戦が失敗してしまった時の絶望もより深く感じます。

また感じた絶望が深ければ深いほど、それを乗り越える主人公たちが眩しく輝きます。

戦争を生き延びた人物も、戦争で死んでしまった人物も、それぞれが自分自身の思惑あり、それぞれの人生を生きて来たと感じました。

これはこの作品でしか味わえない濃厚な味わいで、まるで別の人の人生を何人分も体験するような、重厚で骨太なストーリー です。

じっくりと丁寧に描かれている分、ストーリー展開もゆるやかなのですが、それでも1巻を読み終えるたびに、汗をびっしょりかくような「熱さ」と、何日も余韻が残るような「濃厚さ」を感じ、戦争によるさまざまな「死」を描いて、なお「生」への活力になります。

手に汗を握るスリルと血沸き肉躍るバトルを求める人へ

マンガが好きな理由には、第一に「非日常」を感じたいという人も多いでしょう。

「ドリフターズ」は現代日本では絶対に味わえない世界に没入できます。

迫力のあるバトルだけでなく、読んでいるだけで頭をフル回転させるセリフの応酬も見どころのひとつです。

また、絶妙なタイミングで挟まれる息抜きのギャグシーンによって、思わず力が入っていた肩から力が抜け、重厚で骨太なストーリーも一気に読めます。

読み終わったあとは、余韻にひたりながらも「平和な時代に生まれてよかった」と感じることでしょう。


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