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「春の祭典を踊る」2021年6月20日の日記

・数日前、作曲家の友達がある公演を勧めてくれた。自分が運営に関わっている公演でとてもおすすめのものがあるからぜひ来てくれということだった。
・ストラヴィンスキー自身が2台ピアノ用に編曲した「春の祭典」を、フラメンコ、そしてコンテンポラリーダンスのフロントランナーである、スペイン出身のダンサー、イスラエル・ガルバンが踊るというもの。

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・わたしはストラヴィンスキーの音楽は好きだし、コンテンポラリーダンスは観たことがなかったのですぐに興味を惹かれてチケットを買うことにした。


・チケットがどこを見ても売り切れている。
・公式HPから見た「チケット神奈川」、売り切れ。「eプラス」、売り切れ。「ぴあ」、売り切れ。
・このご時世、こうした公演のチケットが完売することは減っていたのでわたしはびっくりした。わたしはイスラエル・ガルバンを全然知らなかったけれど、どうやら相当に人行きのあるダンサーらしい。


・公演を勧めてくれた友達に泣きつくと、電子チケット専門の「Peatix(ピーティックス)」に出している分だけが売れ残っていると教えてくれた。やはり持つべきものは酒もタバコもギャンブルも好きな悪友である。
・ピーティックスはわたしは前に、会社員兼業ライターの岡田悠さんが出演されるイベントのチケットを買うときに使ったことがあるから、使い勝手はすぐにわかった。


・どうにか残っていたS席のチケットを買うことができ、そして今日。


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・行ってきました。会場の神奈川芸術劇場はわたしは初めて行ったのだけど、ものすごく綺麗な会場だったのでびっくりした。



・広々とした舞台下手側(観客席から見て左側)に2台のピアノ。上手側に、ピアノの弦の張られた機構だけを抜き出して、縦に置いたなぞの楽器(装置?)が一台。そしていたるところに、一段高くなっている平台が置かれていた。
・平台の表面には膜が貼られていて、イスラエル・ガルバンが足で上から踏みつけると「ドン!」と音が鳴る。踏み台の正体はそれぞれ大きさ音質の違う太鼓だった。



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・写真は購入したパンフレットより。


・ピアノの弦の機構だけを抜き出した装置とはこれのこと。


・春の祭典は冒頭はあの有名なファゴットの難所である高音のフレーズから始まる(今回はピアノ)けど、そのフレーズが始まる前に、イスラエルが1人で舞台に上がり、この“装置”の前に寝そべった。そして寝そべったまま足でこの装置に張られたピアノ線を直接叩き、金属同士がすれあうギイギイという音をかき鳴らした。


・オーケストラ版の「春の祭典」は、初演された当時、当時としてはあまりに不快で前衛的な響きに、客席が賞賛と暴言とで大騒動になったという逸話がある。
・ダンサーのイスラエル自身のインタビューによれば、彼はこの冒頭で、当時のその不快さ、不可解さを再現したいのだという。


・イスラエルとピアノの装置とがすっかり会場の空気を支配したのちに、ピアニスト2人が登場し、2台のピアノ版の春の祭典が始まった。


・イスラエルの並外れた正確さと迫力を持つリズム感に圧倒された。
・踊りながら足を踏み鳴らしたり、手を叩いたり、身体を叩くボディーパーカッションを組み合わせていたのだけど、そのあまりに正確に拍にハマる技術に心地よさすら感じてしまった。春の祭典なのに。生贄の少女が死ぬまで踊るバレエなのに。


・人体って、春の祭典の16分音符で足を踏み鳴らすことができるんだ。全部均等な音で。
・楽譜通りの拍の分割だけではなく、明らかにイスラエル独自のリズムを拍間に取り入れていて、一体彼は何秒しでこの曲を感じているんだろうかと思った。
・春の祭典で拍をくずすことってできるんだ。


・イスラエルは右脚に赤いソックスを履いている。これは血の流れを表し、ストラヴィンスキーの世界と自分自身とを接続する物だという。


・血の通った世界観というか、わたしはダンスで初めて感動した。
・これまで、たとえば自分の好きな歌手のライブに行って、曲に合わせて踊っているアーティスト本人を観て感動することはあった。だけどそれはダンスそのものというより、本人に会えているという状況や、本人の声がわたしにcっほくせつ届いているという体験に対する感動だった。


・でもいまは、(恥ずかしながら)詳細を全然知らなかったこのイスラエル・ガルバンというダンサーのダンスを初めてみて、人体の動きが世界を作り上げて会場を支配していくところを見せられて、わたしはすっかりその世界に取り込まれてしまった。


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・終演後、ロビーに出ると作曲家の友達が仕事をしていた。直接会うのは数ヶ月ぶりなのでひとこと挨拶をして会場を出た。


・「春の祭典」という、テーマのはっきりした楽曲が背景にあったからというのもあるだろうけど、わたしの初めてのコンテンポラリーダンス体験は、わたしにたくさんのメッセージと新しい性質の感動を与えてくれた。


・イスラエル・ガルバン。ばっちり名前覚えました。今回は「奇跡の来日」という触れ込みだったから、このご時世もあり、次はいつ来てくれるかわからないけれど、もしまた機会があれば、今度は余裕を持ってチケットを購入して、必ず行きます。


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