黒柴的パンセ #47

黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #32

ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく。

「お前たちには課長という肩書の名刺を渡しているんだから、先方も無下にアポイントを断ったりしない」
これは、最初のソフトハウスでグループのマネージャミーティングの中で、当時の社長が話した言葉である。

話しの経緯は忘れてしまったのだが、当時の営業に関するアクションは、概ね営業部門、およびセクションのマネージャが担当しており、グループのマネージャは受注してきた仕事(と言っても大半は作業者の派遣だったが)を如何にして赤字にならないようにマネジメントするかを担っていた。
当時はだいぶ社員数も増えてきており、1グループあたり40~50名の社員を抱え、だいたい1セクションあたり平均3グループで構成されていたので、セクションマネージャの下には150名くらいの社員がいることになった。
その人数をセクションマネージャ一人で営業することにも限界が出ていたころで、社長はグループのマネージャにも「もっと営業に行け」と発破をかけていた。

しかし、グループのマネージャは「なんとなく、こいつならグループのまとめ役が出来そう」というだけで選ばれただけで、しかも就任した前後に管理職研修のようなものもなかった。
なので、本質的には多少目端が利くシステムエンジニアというレベルのため、「営業に行け」と言われても何をどうするのか?ということがまったく分かっていなかった。
その中で出てきたのが、上記の社長の言葉である。
もっとも、この言葉を聞いても当時のグループのマネージャたちの大半は、「そんなこと言われてもなぁ・・・」という感じだった。

なぜなら、ソフトハウスとしてはそれなりの規模になっていたが、社会的な知名度はほぼ皆無の会社だった。
営業先として、ソフトウェアを開発するSIer、電機メーカーの他に、ソフトウェアを利用する側の一般的な企業にも足を運ぶように促された。
しかし、知名度もない会社のマネージャなんて、そもそも門前払いでアポイントすら取れないんじゃないか?というのが、大半のグループのマネージャの思いだった。
でも、当時は平成に変わって何年か経過していたが、未だに20世紀、しかも昭和の匂いのするころだった。
なので、名刺の肩書は大きくものをいう時代だった。

そう思わされたのは、以下の出来事からである。
当時、黒柴が担当していたあるプロジェクトが、盛大にトラブルとなっていた。(このプロジェクトは来歴の#12、#13で取り上げた)
そのプロジェクトは、もともと別のグループマネージャが担当していたのだが、あまりのトラブルにそのマネージャは退職してしまった。そのため、そのセクションに黒柴が異動する形で、そのトラブルプロジェクトを担当することになった。

しかし、いきなり引継ぎもなく放り込まれたプロジェクトで、黒柴は何の対策も講じることができなかった。状況の課題や、解決に向けてのアクションについて、メーカー側のプロジェクトマネージャから説明を求められることも多かったが、具体的な説明はほとんどできず、ただ打ち合わせの席で叱責される一方だった。
そのような状況に、異動先のセクションマネージャもメンタルをやられてしまい、酒に逃げてほとんど出社してこなかった。

そんな中で、黒柴がほとんど役に立たないので、打ち合わせに黒柴の上司を出席させて、今後のアクションの話しをしたいと打診された。しかし、上記したように黒柴の上長であるセクションマネージャは、出席できる状態ではなく、仕方なくその上の事業部のマネージャに出席してもらうことにした。

組織図に示したように、この人は黒柴が所属する事業部の別の別セクションのマネージャで、特に「〇〇事業部長」という肩書ではなかった。ただし、直近の人事で役員(取締役)となっていたこともあり、同じ事業部のセクションマネージャとしては上席にあたり、事業部長と名乗っても問題のない立場だった。

組織図

本人は、面倒ごとに巻き込まれるのが相当嫌だったようで、黒柴からのお願いに「黒柴くん、うちの事業部には事業部長って肩書の人は居ないんだよ」と言われてしまった。
ただ、このプロジェクトのトラブルは、全社的にも話題に上がっており、役員会でも取り上げられるような状況になっていたので、渋々という感じで打ち合わせに出席してくれた。

このときの打ち合わせでは、ビックリするくらいにメーカー側の態度が変わった。
メーカー側の出席者は、プロジェクトリーダー(いわゆる主任・係長くらいの肩書)、プロジェクトメンバー(ほぼ肩書なし)、それにプロジェクトリーダーの上長であるマネージャ(いわゆる課長の肩書)だった。
黒柴が、上長であるセクションマネージャが出席できないので、その代理になる権限の人に参加を依頼しましたと紹介して名刺交換を行った。
セクションマネージャの名刺の肩書に「取締役」とあったので、メーカー側の出席者は全員「えっ、役員?」とかなり驚いていた。
打ち合わせ自体は、いつも通り現状の課題や、その対策の確認だったが、メーカー側からの突込みはほとんど入らず、かといって自社のセクションマネージャも、もともと詳細を把握していないので、ありきたりな説明を少し話しただけで、特に紛糾することもなく打ち合わせは終了した。
これ以降で、セクションマネージャは打ち合わせに出席しなかったが、定例打合せでのメーカー側の黒柴に対する当たりは、だいぶ柔らかくなった。

これは、20世紀のころで、まだまだ名刺の肩書がものをいう時代だったため、こんな極端なこともあったのだと思う。
しかし、名刺の肩書にかかわらず、自分の立ち位置をきちんと把握し、その立ち位置に従った発言をすることで、仕事って思っているよりもきちんと楽に回せるようになると思う。

長くなったので、次回はそんな話をしてみたい。


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