散髪とアイデンティティの喪失

髪を切った。

それまでツーブロックにして前髪も横髪も顎より下程度まで伸ばしていた髪を切った。

普段は髪を結ぶか下ろすかをしていた。結べば僕の髪は首の辺りを優しく撫でる。下ろせば頬を優しく撫ぜる。そんな髪型だった。例えるならそう、下ろした時は浮浪者やクズバンドマン、結べばおおよそ輩系の人間に見紛うこともあろうかと言うような髪型だった。

髪が長いのがアイデンティティだった。田舎に住む僕にとっては、ただそれだけがこの狭い世界に抗う術だった。それがどうだ。

 今となってはそんなものは無い。誇りだとか矜恃だとかそんな大層なものでは無い。だけど、僕を構成する僕を僕たらしめる要素が無くなった。

 髪を切った感想だ。

 『違和感』。これに尽きる。結んでいれば首を振った時に撫でる毛先や、下ろしている時の顎を撫でる毛先。それに、前に降ろせば少し暗くなるあの感覚が、今はもうない。そんな感覚が喪失感ではなく違和感として襲来したのだ。


 ちなむとこれは昨日の話。

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