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#6 悪質なM&A事例に関する報道

最近、NewsPicksから「【実録】今、詐欺師がM&Aをしまくっている」(以下、リンク先を参照)という動画がリリースされたのをご存知でしょうか?元ネタ自体は数か月前から色んな媒体で報道されているので見聞きした方は多いのではないでしょうか。
NewsPicksの”NPレポート”シリーズは、経済や会計といったトピックを取り上げ、丹念な取材を重ねた見応えのある動画コンテンツである。これまでも、とある上場企業の買収合戦の裏側や不正会計疑惑を持たれた上場企業などを特集した動画を配信しており、不謹慎ですが映画やドラマに引き込まれるような感覚でエンタメとしても面白いなと視聴させて頂いているシリーズである。
そんな”NPレポート”が今回取り上げているのが、M&Aにおいて”ストロングバイヤー”と呼ばれ、これまで複数の中小企業を買収してきたルシアンホールディングス、トウキョウファーム等が買手となったトラブル事案である。

近年、後継者不足に悩む中小企業が増加するなか、事業承継の手法としてM&Aを採用する機会が増えている。一般的に、M&Aの買手は買収後の企業を旧経営陣に代わり事業運営し、持続的に存続させることで従業員の雇用を守り、地域経済に貢献し、自社とのシナジーにより更なる事業拡大を図っていくこと等を役割・目的としている。
しかし、今回の事案では『買手が買収直後に企業から現預金を持ち出し、事業を放棄する』、『株式譲渡契約書に明記された経営者保証の解除が行われない』といった衝撃的な内容となっており、一世一代の思いでディールに臨んだ売手側の思いを踏みにじるものであった。

こうした事件が発生した構造的な要因として、M&Aの仲介事業者の存在が挙げられている。

<ケース①>
上述の配信コンテンツでは、以下のケースが紹介されていた。

  • 個人商店A社の経営者が株式譲渡による事業売却を検討する際に、買手とのマッチングプラットフォーム(バトンズ)を利用していた。

  • バトンズはプラットフォームの運営だけでなくM&Aの仲介業も提供しており、案件が成約した際に買手と売手の両方から成功報酬を受け取る構図であった。 

  • 買収後にA社が保有していた現金500万円が買手であるトウキョウファームに抜かれていた

  • 株式譲渡契約に経営者保証を解除する条項が盛り込まれていたにも関わらず、買手であるトウキョウファームは買収後に解除せず、A社の経営者は債務の連帯保証を継続して負う結果に。

    ⇒通常、仲介業者は買手と売手の間に入り、価格交渉や手続などのサポートを客観的かつ公正に行う役割を担っているものだという感覚(思い込み?)がある。しかし、バトンズ側にバイサイド・セルサイド両方から成功報酬を受領するためにディールを成立させたいという強いインセンティブが働いたことが、M&Aに関する知識や経験が乏しいA社の経営者が被害に遭った一因なのではないかとされている。
    さらに、仲介業者の営業担当者に課される重いノルマ(3,000件/月の電話営業)が、案件化したディールは絶対に成就させたいという潜在的な思いを生み、同時に買手の主張を優先する構図になっているのではないかとされる。

<ケース②>
また、同コンテンツでは、他に以下のケースが紹介されている。

  • シリコン部品の卸売業を営むB社は、過去にルシアンホールディングスへの株式譲渡を検討していたが、騙されそうになり途中でディールを中断

  • B社は1度目のような買手を紹介されないために、大手仲介業者である日本M&Aセンター(東証プライム上場)に仲介業を依頼

  • しかし、その後、日本M&Aセンターがルシアンホールディングスから提携仲介契約料(日本M&Aセンターに買手登録するための料金)を受領していたことが判明

  • 日本M&Aセンターを含めた37社の仲介業者が、買手に対する審査不足により、悪質なM&Aに関与したとされる。(不成立の案件含む)

    ⇒近年、急速に拡大してきたM&A市場に対して、仲介業者側の対応が間に合っておらず(買手の審査が不十分)、悪質なプレイヤーが買手として紹介されてしまっている可能性がある。仲介業者にとって、これまで何十社も買収しているルシアンホールディングスのような会社(ストロングバイヤー)は、継続的に自社に利益をもたらしてくれる上客であるため、取引の中で買手の利益が優先される傾向もあるとのことである。


ケース①②をはじめとしたトラブルを受けて、中小企業の事業承継策としてM&Aを推進していきたい政府は以下のような動きを見せている。

2024年6月10日にM&A仲介大手の株価が一斉に急落する事態が起きた。7日に政府が開催した「新しい資本主義実現会議」で、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の2024年改訂版案が公表されたことが一因とみられる。
この中で、”M&A仲介事業者の利益相反構造”や”高額な手数料”といった問題が指摘され、今後の規制強化による収益悪化への懸念が広がった。
~中略~
政府が改訂版案でM&A仲介の問題を指摘したのは、仲介事業者が自らの利益を優先することで、中小企業のM&Aをめぐるトラブルが続出しているしているからだ。

会社四季報オンライン「M&A仲介大手の株価が”軒並み急落”に陥った根本原因」2024年6月17日


<むすび>
ケース①②ともに、M&A仲介の構造的な問題が根底にあり、改善に向けて政府、中小企業庁も動いているところです。普段、業務で関与する買収対象企業は売上高が数十億~数千億円クラスですが、そういった取引では仲介業者ではなく、買手・売手のそれぞれにFAが就いているので『両手取引』になることはありません。そのため、こういった規模のM&A仲介では双方から利益を受け取る体制になっているという点は驚きでした。。。

また、別の観点としてですが、ケース①は金融機関からの債務が数千万円あり、そこまで多くの収益を生む会社には見えなかったので、そもそも論としてそんな会社を買ってくれる(その上、連帯保証も解除してくれる)というおいしい話があるのか?という点から深い疑問を持つべきだったかなと思いました。事業再生業務にも携わっている身からすると、通常のM&Aというよりもメイン行や中小企業活性化協議会に相談して私的整理に移行する案件じゃない?といった感覚がしました。

今回の記事は以上となります。文章を書くことで頭の整理にもなりますので、今後とも駄文にお付き合いいただけますと幸いです。

(その他参考リンク)
【緊急取材】企業買収に潜む詐欺師を直撃 その巧妙な手口とは?:ガイアの夜明け | テレ東・BSテレ東の読んで見て感じるメディア テレ東プラス

後継者いない中小企業への悪質MA”相次ぐ 買収持ちかけ 資産譲渡させて放置 中小企業庁が注意呼びかけ | NHK

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