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「放散虫の夏」の思い出とその後のこと

「おかしな形の放散虫」への投稿
「放散虫の夏」とは2019年の夏のこと。放散虫を顕微鏡で観察して、そのスケッチを遺した進化学者のヘッケルの没後100年を記念して、その夏、写真展「放散虫」(富士フィルム主催)が東京と大阪で開催されました。それに関連したイベントで、放散虫に似た形の食べ物を探してSNSに投稿するというものがあり、白亜紀に生息していた9種類の放散虫に似た形の食べ物の写真が募集されていました(日本古生物学会化石友の会主催「おかしな形の放散虫」)。

おもしろそうだなと思って、私はSNSのアカウントをつくって、いくつか投稿しました(今はそのアカウントはありません)。放散虫に似た形を探すのは、本当におもしろかったです。全体的には違う形だけれど、この部分はオクラみたいだなとか、グラノーラのシリアルの形に放散虫に似たものを見つけて、グラノーラが放散虫の形でできていたら楽しいだろうなと思ったり、魚の骨の一部に放散虫に似ている形を見つけたりして楽しみました。ミクロの世界の生き物の形と、私たちがふだん何気なく食べている物の形が似ているなんて、それだけでもおもしろいなと思いました。

そんなふうに放散虫に似た形を探す時期を過ごしてから、そうした物の見方は自然と取り込まれてしまい、無意識に放散虫に似ている物を探してしまったり、放散虫と関係ない物が放散虫に見えてしまったりするのです。放散虫の形のバリエーションが豊かなことも物の形を見る楽しさにつながっているのだと思います。

放散虫の夏が過ぎてから、私が見つけた放散虫のような形のものを載せたいと思います。対象となる放散虫の画像がないので、どこまで伝わるかわかりませんが…。

私が見つけた放散虫のような形のもの7つ

1.巻貝をモチーフにした建物

「海のピラミッド」

巻貝をモチーフにした建物で、螺旋状になっていますが、放散虫のように見えます。こちらの建物の中には入ることができて、建物の中から上を見上げると、アンモナイトの殻のような形が見えます。

2.ぶどうの軸

ぶどうを一粒一粒とりながら食べて、残った軸を見ては、きれいだなといつも思っていました。その枝分かれを見ていると、放散虫を思い出します。


3.ホイップクリーム

生クリームをホイップしたら冷凍保存できると知り、絞ってみたら放散虫みたいな気がしました。絞るのが下手で恥ずかしいですが、写真を載せておきます。


4.ステンドグラスのランプシェード

下に向かって広がっていくのにしたがって六角形の形が八角形に変化していくところがおもしろいです。こういう形の変化のおもしろさを放散虫に教えてもらいました。


5.洗濯槽の底

中心から放射しているところが放散虫みたいです。


北欧のネーベルスロイドやヒンメリにも放散虫に見えるものがあります。手元にあるものの写真を載せておきますが、他にもいろいろな形のものがありますので、ご興味がありましたら、調べてみてくださいね。

6.ネーベルスロイドのオーナメント

ネーベルスロイドは白樺樹皮細工のことですが、上の写真のものは、ヒノキの経木でつくられています。球体のものもあり、見ていると楽しい気分になります。


7.ヒンメリモチーフのクリップ

上から時計回りに「きらめき」、「リース」,「星の光」、「木漏れ日」のヒンメリをモチーフにデザインされています。

ヒンメリは、北欧の長く厳しい暗い冬の暮らしを少しでも明るく楽しいものにしようと、家の中を飾るものとして生まれました。やさしい光やキラキラした光などいろいろな「光」がモチーフになっていて、人の心を照らすような光を表現したヒンメリの形と放散虫の放射状に伸びてゆく形が似ていることは興味深いことです。放散虫は深く暗い海の中の光なのかもしれないなと思ったりしています。肉眼では見えないほど小さな光の放散虫が発見されたことを嬉しく思います。

ここまでおつき合いくださり、ありがとうございます。ここから先は、2020年に開催された放散虫の写真展に行った時の感想などです。


「放散虫の夏」ふたたび
私は2019年の写真展「放散虫」には行けませんでしたが、2020年に富山市科学博物館で開催された「つくつく ころころ 放散虫 ちいさな かたちの 写真展」には行けました。そのとき撮ったのが下の写真です。どれも白亜紀の放散虫の骨格で、形の多様性が見てとれます。この展示写真は、電子顕微鏡写真を拡大して銀塩プリントしたもので、とても美しいです。この美しさは、絵本『ほうさんちゅう ちいさな ふしぎな 生きものの かたち』(監修:松岡篤,文:かんちくたかこ,アリス館,2019)でも楽しむことができます。注)絵本の中には下の写真と全く同じページはありません。

また、銀塩プリントの個々の放散虫の拡大写真も展示されていて、それぞれの説明パネルには、放散虫を研究している人の目でどんなところを見ているのかがわかるようなコメントが書かれていて、研究者の視点で見ることができて、楽しめました。

それから、展示の中に、世界で最初のプラネタリウムのための天体ド―ムが建築されている様子の写真(1922年に撮影されたもの)があり、その構造のモデルが放散虫であるという説明がありました。

プラネタリウムのあの特別感やわくわくする感じは、放散虫とつながっている場所だからなのかなと、秘密を知った気分です。また、天体ドームは天体や星々を映すためのもので、その構造の元になっているのが海のミクロの生き物ということに感動しました。遠く離れているようなもの同士がつながっていたこと、生き物の骨格が建築に利用されていること、放散虫の形を人間の生活に取り込もうとした人たちがいたということに、夢があっていいなと思います。そして、豊かさを感じます。星は夜にしか見えなかったり、雲に隠れてしまうこともあったり、望遠鏡がなければ見えないものもある中で、天体や星を自由に頭上に映し出す天体ドームは、ふだん見えないものを見えるようにするためのもの。天体ドームが放散虫の発見があればこそできたものなのかもしれないなと思うとき、見えないものを見ようとすることがいろいろなものを生み出すような気がしてきました。

肉眼では見えないものを見ようとした人、見るための道具を発明した人、見えたとき、それを何かに応用して楽しませてくれた人…。そんなふうに今へとつながっていること。そうした流れの中で、ヘッケルが亡くなって100年後の2019年には、RC GEARの放散虫の拡大模型や銀細工が存在していたことは、感慨深いものだと思います。RC GEARの作品は、放散虫の研究者の監修を受けていて、放散虫の正確な形や美しさを立体として伝えてくれます。RC GEARの作品のことは、写真展よりも以前から知っていましたが、ヘッケルからの歴史の上にあるものとしてとらえることができました。RC GEARの銀細工の放散虫作品については、次回、改めて紹介します。


おわりに

2019年の写真展「放散虫」では、「放散虫でアート」(アリス館主催)という企画もされていて、こちらもSNSで作品が募集されていました。ジャンルは幅広く、さまざまなものがつくられ、応募されているのを見ていました。当時、見ていただけでしたが、2020年頃から短歌をつくりはじめて、いつか放散虫の短歌をつくりたいなと思っていて、2022年につくることができました。その短歌を載せて、おわりにします。

透きとおるガラスの骨の生きものの亡骸溜まる海の懐

短歌をつくるのに参考にしたもの;

放散虫の骨格は、「二酸化ケイ素」という物質からできています。

『ほうさんちゅう ちいさな ふしぎな 生きものの かたち』,
監修:松岡篤,文:かんちくたかこ,アリス館,2019,p.34

ガラスのかたい骨格をもっている放散虫は、死んだあとも、こわれずに海の底につもって化石となります。

同上,p.35

注)引用文のふりがなは省略しています。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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