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体重20gのマウスの尻尾の静脈に極細針で注射ができるようになったときの話

Written by 米良克美(めらっち)

この note「幸せの青い鳥」では、たぶん他人は分かってもらえないと思うけど、自分にとってはとても幸せな瞬間について書いていきます。

改めまして、米良克美(めらっち)と申します。わたくし米良の自己紹介は下記の記事をご参照下さい。


さて唐突ですが、わたくし米良は長いこと薬の研究に従事してきました。はい、20代のすべてを実験に捧げてきたと言っても過言ではないでしょう。

特に、動物を使った実験を多く行っており、イヌ、サル、ウサギ、ラット、マウスなど多くの動物を使った実験を行ってきました。

わたくし米良の研究分野は「薬物動態学(体内に入った薬がどの組織に分布して代謝・排泄されていくかを研究する学問)」でしたので、動物に薬を注射して、体内での薬の動きを研究するということは日常茶飯事でした。

そんな動物実験の中で、わたくし米良がとても幸せに感じたことがあります。それは「体重20gのマウスの尻尾の静脈に極細針で注射ができるようになったとき」のことです。

たぶん、というか絶対に伝わらないと思いますが、実験用マウスってとても小さいんです。体重20g程度です。皆さんの使っているiPhoneの重さが200gくらいなのでその10分の1くらいの重さです。

その体重20gのマウスの尻尾の血管(静脈)の細さっていうと、髪の毛1~2本分くらいの細さなんです。この血管に極細の注射針を刺して、その上、薬液を注入するというのは、もはや職人芸の領域です。

わたくし米良は、この職人芸ができるようになるまで約1.5年かかりました。これは、できるようになった人にしか分からないと思いますが、マウスの極細の血管を上手に捉えて、スーッと薬液を注入できると、言いようのない多幸感を得られます。

本当に、赤く透けて見えているマウスの血管が、薬液が通っていくとスーッと透明になる瞬間を見ることができ、自分の成功が実感できて、とても幸せな気持ちになったのを覚えています。

はい、たぶんここまで書いて、まったく共感いただけないかと思います。イイんです。私はとても幸せを感じた瞬間なので。

蛇足ですが、マウスの尻尾の血管に注射をすることが上手になったら、実験データのバラつきも小さくなり、より再現性の高い結果を得ることが可能となり、最終的には多くの研究成果を挙げることができました。


はい、いかがだったでしょうか?まったく共感できない、わたくし米良にとっての幸せな瞬間の共有でした。

時代は変わり、テクノロジーの進化によって、実験手法も進化してきていますが、未だにマウスの尻尾の血管への注射は難しいようです。ちょっと調べてみたら、2019年にもこの手技に関する論文が出ているようでした。

この論文は、マウスの尻尾の血管への注射の難しさを分かっている人であれば、感動を覚える内容です。たぶん誰も興味のある方は少ないと思いますが、ご参考までに共有します。

Drug Delivery System/34 巻 (2019) 4 号
マウスの尾静脈内投与法
内田 智士, 樋口 ゆり子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/34/4/34_309/_article/-char/ja/

なかなか共感できない話に、お付合いいただきありがとうございました。

お幸せに!


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