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行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究 報告書について

行政サービスにおけるデジタル格差に関する調査研究 報告書
https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20210615/divide2020/
DIGITALDIVIDE
令和 3 年 3月31日
一般社団法人 行政情報システム研究所

加工

CONTENTS

はじめに

   はじめに ―本調査研究の背景と目的―
ー略ーそこで本調査研究では、我が国がこれからデジタル化を進めるうえで直面していくデジタル格差の課題を把握・整理し、それぞれの課題に対して講じるべき対策の方向性を導出することを目的とする。なお、本調査研究は、ソシオメディア株式会社の協力を得つつ当研究所において実施した。
ー略ー一般社団法人 行政情報システム研究所ー略ー

1-2|調査研究の流れ


デジタル格差は目に見えない、捉えにくい課題である。本調査研究では、可能な限り具体的な事実に基づいて分析を行い、証拠に基づく推論を積み重ねることによって、自治体にとってのデジタル格差の課題を整理し、有効な対応策を導出していく。ー略ー

1-3-1 課題類型の導出プロセス


本節では、デジタル格差の課題を性質に応じて分類するための課題類型を導出する。
まず、自治体基礎調査を通じて、自治体にどのような格差課題が存在するのかを洗い出して整理し、課題類型を仮説として導出する。次に、行政デジタル化の先進国であるイギリスおよびデンマークと日本において、政府のデジタル格差に関する課題認識が示唆されている文献(以下「各国文献」)から格差課題を抽出し、上記の課題類型へのマッピングを行い、課題類型の過不足を検証する。これにより、デジタル格差として共通の課題類型を導出する
[調査対象文献]
イギリスの事例
Government Digital Inclusion Strategy(英国政府のデジタルインクルージョン戦略)、英国内閣府、2014
https://www.gov.uk/government/publications/government-digital-inclusion-strategy/government-digitalinclusion-strategy
デンマークの事例
デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み、行政情報システム研究所、行政&情報システム 2020年6月号
日本の事例
デジタル・ガバメント実行計画 2020年12月25日改定(閣議決定)(10.デジタルデバイド対策)
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/2020_dg_all.pdf
デジタル活用支援推進事業、2021年2月17日 総務省 情報流通行政局
https://www.soumu.go.jp/main_content/000734080.pdf

ー略ー

1-3-2 課題類型の仮説設定
自治体の格差課題に関する課題認識を把握し、課題類型の仮説を導出するため、以下の手順により「自治体基礎調査」を実施した。
[調査対象]
ヒアリング対象自治体は、格差課題への認識が高い自治体から低い自治体まで偏りなく含まれるよう、図表1-9の考え方に基づいて選定を行った。また、選定結果を図表1-10に示す。
自治体名 人口規模
(ア)デジタル格差に対する課題認識が高い自治体
(イ)デジタル格差による課題が顕在化している自治体
(ウ)デジタル格差による課題が顕在化していない自治体
(エ)島しょ自治体
D市 中核市(50万人台) ◯
H市 都市(10万人台) ◯
C村 町村(約3千人) - 〇(高齢者が多い)
E市 都市(約1万人) - 〇(所得額が低い)
F村 町村(約2千人) - 〇(所得額が低い)
A市 都市(10万人台) - ◯
B市 都市(10万人台) - ◯
G村 町村(1千人未満) ◯
※1 日本の高齢者(65歳以上)人口の割合は、2020年9月15日現在で28.7%
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf
(ア)デジタル格差に対する課題認識が高いと認められる/認められない自治体の両方をヒアリング対象に含めるようにした。デジタル格差に対する課題意識が高いと認められる自治体は、以下の方法で分類した。
・各自治体が制定している情報化推進計画等を確認し、デジタルデバイドに係る課題や施策について記載している自治体を「デジタル格差に対する課題意識が高い」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった2自治体を調査対象とした。→D市、H市
(イ)デジタル格差に対する課題認識が高いと認められない自治体については、デジタル格差による問題が顕在化している/していない自治体の両方を含めるようにした。デジタル格差による課題が顕在化している自治体は、以下の方法で分類した。
平均所得額が低い、もしくは高齢者率が高い地域はスマートフォンやPCの利用率も低い傾向にあることに着目し、上記いずれかの傾向が強い自治体を「デジタル格差による問題が顕在化している」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった3自治体を調査対象とした。→C村、E市、F村
(ウ)上記(ア)(イ)いずれにも該当しない自治体を「デジタル格差による問題が顕在化していない自治体」とみなした。該当自治体のうち、ヒアリングに協力のあった2自治体を調査対象とした。→A市、B市
(エ)上記に加え、地域による特徴的な格差が生じやすいと考えられる島しょ地域の自治体をヒアリング対象に加え、「1島・1自治体」であり平均的な人口密度の自治体のうち、ヒアリングに協力のあった1自治体を調査対象とした。→G村
ー略ー

(a)確認された格差課題への認識(抜粋) 

(b)導出された課題類型
デジタルにアクセスできない貧困層への配慮は重要(B市)

 Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如
 絶対的困難(深刻な身体障害)
中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感(B市)
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
 デジタル利用環境の不足(経済的、地理的制約)
 高齢者がデジタルを使えない(B市)
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
 身体/認知的ハンディキャップ(視覚障害、高齢、日本語が苦手)
使い方の格差、リテラシーの差(A市)
能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人を分けて考えること(B市)
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 デジタルへの抵抗感(例:スマホ・PC・インターネット利用のリテラシー不足)
 能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人を分けて考えること(B市)

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 行政プロセスへの抵抗感・無関心(例:マイナポータルを理解できない、
 知らない、興味がない)
[調査方法]
・対象自治体に関する基礎情報をデスクトップ調査で入手
・対象自治体の職員に対して、オンライン会議によるヒアリングを実施
・補足情報の入手や事実確認等のフォローアップ調査をメールなどで実施

1-3-3 イギリスの事例からの課題抽出


 「各国文献」のうち、イギリス政府のデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「Government Digital Inclusion Strategy」から格差課題の抽出を試みた。
 本書は、2014年に策定された英国政府によるデジタルインクルージョン(社会的包摂)実践のための指針である。同指針ではユーザー調査とコンサルテーションを通じて、人々がオンラインにアクセスする際に直面する以下の4つの主な課題を特定することとされている。
・アクセス不全:様々な理由により自宅からインターネットに接続できないこと
・ スキル不足:インターネットを利用するためのスキルがないこと
・モチベーション不足:インターネットを利用することがなぜ良いことかを知らないこと
・ 不安:犯罪への不安や、どこから始めればいいのかわからないこと
同書で抽出された課題認識を、上記の分類に当てはめると[図表1-12]のとおり。
英国政府による課題認識
 アクセス不全 スキル不足 モチベーション不足、不安
課題の詳細内容
 アクセシビリティ不全:誰もが利用可能である状態でない
リテラシーに関するスキル不足:識字能力など読解に関わる能力不足
 リスクへの恐れ:デジタル利用を恐れ、失敗することを心配する
認証の不安:個人情報の盗難を心配する
 アクセス場所がない:インターネットにアクセスするために移動しなければならない
 基本的なデジタルに関するスキル不足:ブラウジング、検索エンジンの使用、電子メールの使用など基本的なデジタル使用能力不足
 必要性への疑問:デジタルでの手続きを「押し付けられた」と感じる
セキュリティ知識不足:自分の情報がオンライン上で安全かどうかを心配する
コスト負担できない:機器が高価格であり設置費用、接続費用、継続的なネットワーク費用などが必要
 セキュリティに関するスキル不足:安全なオンライン利用の方法を知らない
 金銭的なメリットへの理解不足:インターネットを利用することで、お金を節約することができると理解されていない
拠り所不足:どこで助けを得られるのかわからない
 技術習得不足:インターネット技術は急速に変化しており、最新技術に対応することが必要
 自信がない:複雑すぎると思われるテクノロジーの利用に自信を持てない
 社会的利益への理解不足:インターネットが自分の特定の状況でどのように役立つかが理解されていない
 信頼不足:どの情報源やウェブサイトが信頼できるかわからない
 インフラ不足:インターネットに接続できない家庭や、速度が遅い家庭がいまだに存在する
 健康や幸福のベネフィットへの理解不足:健康に関する情報を得たり、医
療サービスを受けられることが理解されていない
 説明言語が難解:インターネットにまつわる言葉が誰でもわかりやすいものになっていない


1-3-4 デンマークの事例からの課題抽出

 「各国文献」のうち、デンマークのデジタル格差に対する課題認識を示唆した文献「デンマーク政府におけるデジタルデバイドへの取り組み」から格差課題の抽出を試みた。これらのセグメントの特徴やその出自背景に基づき同図右列のとおり格差課題を導出した。
 デジタル化が浸透していないセグメント 導出された格差課題
デジタルにあまり精通していない高齢者 高齢者などによるデジタル技術への不慣れや操作知識の不足
 行政から来る情報の重要性を理解していない若年層 若年層による行政サービスへの無理解と、自分自身の生活との関係への認識不足
 西欧諸国以外から来る移民 移民などによる公用語を理解できない言葉の問題
 さまざまな社会的に不利な条件を持っている人 肉体的、認知機能的、言語障害的(失読症など)ハンディキャップの存在

1-3-5 日本の事例からの課題抽出


 「各国文献」のうち、日本のデジタル格差に関する課題認識を示唆した文献「デジタル・ガバメント実行計画」および「デジタル活用支援推進事業」で示された施策から[図表1-14]のとおり格差課題の抽出を試みた。

想定されている施策 導出された格差課題
「デジタル機器に不慣れな方でも容易に操作できるUIの設計」* デジタル機器に不慣れで操作が困難- 電子申請の使い方が複雑**
「外国人利用者向け申請画面等の多言語化」* 外国人の中には申請画面の日本語が読めない方がいる「音声認識による対話形式での入力」* 視覚障がいなどのハンディキャップの存在- 電子申請でできること自体を知らない**

1-3-6 課題類型の検証結果

 「自治体基礎調査」の結果から導出した課題類型の仮説に対し、1-2-3ないし1-2-5においてイギリス、デンマークおよび日本の事例から抽出した格差課題をマッピングし、課題類型の過不足を検証した。その結果、図表1-15のとおりいずれの格差課題も仮説として設定した5つの課題類型のいずれかに該当することが確認できた。

各課題の詳細
Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

ー略ー

デジタル機器に不慣れだと操作が困難 ◯
電子申請の使い方が複雑 ◯
外国人の中には申請画面の日本語が読めない方がいる ◯
視覚障がいなどのハンディキャップの存在 ◯
電子申請でできること自体を知らない ◯
以上の検証の結果を踏まえ、[図表1-16]に示した5つの項目をデジタル格差の「課題類型」として整理した。
Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

2 自治体の課題認識


本章では、自治体基礎調査ならびに自治体の首長および職員へのインタビュー結果をもとに、自治体が認識している格差課題を抽出・整理する。
[分析プロセス]
1. 1章の自治体基礎調査の結果から抽出された格差課題を課題類型ごとに分類・整理し、傾向や特徴を分析する。
2. 首長の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。
3. 自治体職員の課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の職員にインタビューを行い、格差課題を抽出し、課題類型によって分類・整理する。
4. 以上を踏まえ、自治体全体としてのデジタル格差に関する課題認識の傾向や特徴を分析する。

自治体の課題認識

ー略ー

自治体の情報化推進計画やデータ活用推進計画等に「デジタル格差」の記載がある場合、明示的に認識しているものとする。
② 上記①の記載はないものの、自治体基礎調査の中で実施したヒアリングの内容に格差課題に関する回答がある場合、黙示的に認識しているものとする。
③ 上記①および②のいずれの記載もない場合に、認識していないものとする。

2-1-2 分析結果
ー略ー

・「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に分類されたものが12件中8件と最も多かった。特に高齢者の苦手意識が大きな課題として認識されている。
・ ただし、リテラシーは、若年層も含め、利用できる/できない住民間での個人差が大きいのが実態。
・ ICTインフラの不備も依然として格差課題として認識されている。
・ 一部の住民に行政サービスが行き届かないことも課題として認識されている。その点、行政職員にも課題があると認識されている。
[ 図表2-2 自治体基礎調査で確認された課題認識 ]
自治体 人口 格差課題を示唆する内容 課題認識度合 課題類型
D市 中核市(50万人台)
a) 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である
①明示的に認識
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど)

①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
H市 都市(10万人台)
a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない)
①明示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
A市 都市(10万人台)
使い方の格差、リテラシーの差が存在する

②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)若年層は得意・不得意がはっきりしている ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある
②黙示的に認識 Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができて②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境B市 都市(10万人台)
a)高齢者がデジタルを使えない ②黙示的に認識 Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある
②黙示的に認識 Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある

②黙示的に認識
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失

②黙示的に認識
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如
C村 町村(約3千人) a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある

②黙示的に認識

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
E市 都市(約1万人) ③認識なし
F村 町村(約2千人) ③認識なし
G村 町村(1千人未満) ③認識なし

自治体の課題認識

(2)自治体による格差認識の差異の分析

・ 大規模自治体:明示的に格差課題を認識している
・ 中規模自治体:黙示的に格差課題を認識している
・ 小規模自治体:格差課題を認識していない
という傾向がみられた。
一般的に、大規模自治体ほどデジタル化が進んでいることから、この結果は、デジタル化が進展するほど格差課題への認識が高まる一方、デジタル化が進展していなければ格差課題は認識されにくいことを示唆する。



2-2|自治体首長の課題認識

2-2-1 調査対象・方法
 自治体首長の立場からのデジタル格差への課題認識およびその解消に向けた考え方を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の市長にインタビューを行う。
[インタビュー対象者]
・豊橋市長 浅井由崇 氏
・長岡市長 磯田達伸 氏
[選定理由]
豊橋市および長岡市をインタビュー対象としたのは、図表2-4に示す選定基準による。
選定理由
豊橋市 長岡市
a)デジタル化への意欲が高い自治体であること(デジタル格差は一定程度のデジタル化への認識がなければ顕在化しないため)
「市区町村の電子化推進度ランキング」(総務省、2020)にて10位にランクインしている「長岡版イノベーション」を全庁を挙げて推進している
b)産業構造として農業と工業が共存していること(デジタル格差の課題認識の多様性を確保するため、中山間地域なども含まれるようににした)
農業全国9位(産出額、2016年)・工業全国19位(出荷額、2016年)であり、山間部や沿岸部の防災に関する研究も行っている
農業全国78位(産出額、2016年)・工業全国105位(出荷額、2016年)、中山間地域住民への支援に取り組んでいる
c)自治体間の学際的交流関係が存在すること(学生とデジタル格差の関連を探るため) 豊橋技術科学大学を持ち、官学の交流がある 長岡技術科学大学を持ち、官学の交流がある
d)多国籍コミュニティが存在すること(外国人住民とデジタル格差の関係を探るため) 全体の5%にあたる18,000人の外国人が居住 「多文化共生」を目指した国際交流センター「地球広場」を設置している

[インタビュー実施時期]・2021年3月
[インタビュー方法]・オンラインもしくは対面によるインタビュー調査
[インタビュー項目]
(1)市におけるデジタル化の現状と、将来のデジタル化のビジョンについて
・貴市における行政のデジタル化で行なっている取り組みについて教えてください。
・将来(例えば5年後)に向けての貴市のデジタル化へのビジョンについて教えてください。
(2)現在、認識されているデジタル格差と、その対策について
・現在、住民のデジタル格差について問題と捉えていることを教えてください。
・上記の質問に関して、この対策について取り組んでいることを教えてください。
・将来(例えば5年後)に向けて、デジタル格差は、どのような状況になると予想されますか?
これに向けての対策について教えてください。

2-2-2 調査結果

「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に分類された格差課題が5件中3件と最も多い。特に、地域にとってのソーシャルインクルージョンの重要性の観点から、高齢化や外国人の増加など社会の変化に伴い発生する社会的弱者への配慮が重視されているとみられる。
[ 図表2-5 首長の課題認識 ]
自治体 格差課題を示唆すると認識している内容 課題類型豊橋市 市長
a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である。
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない。
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない。

Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
長岡市 市長
 a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車を運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある。
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることができない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる。

2-3自治体職員の課題認識

2-3-1 調査対象・方法
 自治体職員のデジタル格差への課題認識を把握するため、愛知県豊橋市および新潟県長岡市の職員にインタビューを行った。なお、課題認識の中には課題自体は格差課題でないものの、デジタル化によって、当該課題がより深刻化するもの(例:外国人にとっての日本語の壁)も含まれている。
[インタビュー対象自治体]
・豊橋市(人口約38万人)
・長岡市(人口約27万人)
[インタビュー実施時期]・2021年3月
[インタビュー方法]・オンラインもしくは対面によるインタビュー調査
[インタビュー項目]
(1)デジタル化のこれまでの取組と今後の展開について
・これまで、貴市の行政のデジタル化として行なってきた取組について教えてください。
・今後、住民向けに、使用しているもらうことを目指しているデジタルサービスについて教えてください。
・デジタルサービスを検討する上で、大切にしている指針について教えてください。
(2)市におけるデジタル格差是正の取組について
・現在、貴市で認識されている住民のデジタル格差の課題について教えてください。
・これらの課題の中で、貴市として課題解決に取り組んでいる対策について教えてください。
・これらの対策の中で、対策について住民からフィードバックがあった事例があれば教えてください。
(3)デジタル格差是正の取組の自己評価と今後の展開について
・現在、認識されているデジタル格差の是正の取組について自己 評価を教えてください。
・行政デジタル化に伴い、住民向けに提供しているWebサービスやアプリケーション等について、使い勝手の改善などの取り組みがあれば教えてください。
・デジタル格差の是正の取組について今後の抱負を教えてください。


2-3-2 インタビュー結果
 豊橋市および長岡市の職員へのインタビューの結果、図表2-6のとおり格差課題を示唆する回答内容が得られた。
職員の格差課題に対する課題認識としては15件中「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する内容が6件、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に属する内容が10件を占めた。
 既にデジタル化への取組みを進めている両市では、行政サービス提供や情報提供のデジタル化に関わる部分に課題認識の重点がシフトしていると考えられる。
 内訳をみると、現場で住民と接する職員は、より先鋭に行政プロセスへの抵抗感や無関心を強く感じていることがうかがえる。特に、高齢者一般が感じている苦手意識を認識しつつも、個人間で格差があること、UIやUXもやはり重要であることなどが現場目線の課題として認識されている。また、職員の間での格差も課題として認識されている。
 また、件数としては少ないが、長岡市職員のインタビュー回答「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」にあるように、デジタル化を進めていくにあたっては、「家族同様に相談できるスタッフによる支援体制を作っていくことの必要性」が指摘されている点は注目される。

豊橋市 職員
 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である III 身体的・認知的ハンディキャップ
 b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い

V 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使うのかを考えさせてしまう状況である
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
IV デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
V 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
長岡市 職員
 そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 c)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
 d)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分でなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった。
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される

2-4|まとめ―自治体の課題認識
2-2および2-3で導出した自治体首長および職員の課題認識とその課題類型の全体を整理したのが図表2-7である。同図表に基づき、(1)自治体全体としての課題認識の傾向と特徴を整理・分析する。また、首長と職員の間での課題認識の差異を分析する。
 豊橋市 職員b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い
 豊橋市 職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる 
 豊橋市 職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者にどのように使
うのかを考えさせてしまう状況である ○ ○ ○
 豊橋市 職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる 
 豊橋市 職員f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない
 長岡市 職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある 
 長岡市 職員b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない
 長岡市 職員c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事
 長岡市 職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない
 長岡市 職員e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる
 長岡市 職員f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少なくないと感じた
 長岡市 職員g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分でなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった
 長岡市 職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた 
 長岡市 職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援スタッフの不足が懸念される 

ー略ー

3-1|住民の課題認識

3-1-1 調査対象・方法
豊橋市および長岡市在住の以下の属性をもつ住民を対象に、格差課題に関するインタビュー調査
を行なった。なお、各項目の末尾の括弧内の数値は、インタビュー実施件数である。
・【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)(4件)
・【属性②】三世代世帯(日本人)(4件)
・【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)(5件)
・【属性④】外国人(4件)
・【属性⑤】大学生(留学生含む)(6件)
属性ごとのインタビューの狙いは次のとおりである。
・【属性①】標準的な家族構成の住民が行政のデジタルサービスを活用する上での課題認識を把握する。
・【属性②】【属性③】高齢者が行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。
・【属性④】外国人が日本の行政のデジタルサービスを活用する上での障壁を探る。
・【属性⑤】大学生が今後、ソーシャルインクルージョンに向けてデジタル格差解消に資する社会活動に参加する可能性を探る。

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デジタル格差の課題の実態
3-1-2 インタビュー結果

属性 格差課題と認識している内容 課題類型
【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)
a) デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
b) Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
【属性②】三世代世帯(日本人)
a) パソコンの字が小さいため、目が疲れるⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしてもデータが消失している)) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
e)自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)
a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
【属性④】外国人世帯a) 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b) 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない) Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)
a)英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く) Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがあるⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
c) 自分が住む自治体の活動、行政などに興味が薄いⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
[ 図表3-3 住民が認識する格差課題の課題類型ごとの分布 ]
課題類型
Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル前提条件欠如
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅲ身体的・認知的ハンディキャップ
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心


ここから次の傾向が明らかになった。
属性①~属性⑤いずれにおいても、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題が含まれており、格差課題全22項目中13項目を占めている(太字箇所を参照)。
・【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性④】外国人世帯では、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。
・ 高齢者が属する【属性②】三世代世帯(日本人)および【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)でのみ、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」の格差課題を認識している。


団体・自治体 インタビューの狙い インタビュー項目の概要
社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)Good Job!センター香芝/森下静香 氏
 障がい者との共創型のインクルーシブデザインアプローチの実践を行なっている団体から、インクルージョンも含めた共創を進める上での課題を聴取するとともに、高齢者や障害者の方達の声も反映したデジタル格差の解決策のヒントを探る
・ 障がいのある方とIoTやITなどのデジタル機器との関わりについて
・ Good Job! Projectの取り組みとデジタル格差やインクルージョンとの関わりについて
ウェブアクセシビリティ推進協会
(NTTクラルティ株式会社:ウェブアクセシビリティ推進協会 正会員)/
田中章仁 氏
 ウェブアクセシビリティの課題解決に専門的に取り組んでいる団体によるデジタル格差への対応事例などを聞くことで、デジタル格差の課題を把握するとともに、アクセシビリティ改善のヒントを探る
・ 視覚障がいや聴覚障がいの方にとってのウェブアクセシビリティの重要性について
・ 行政のデジタルサービスに関して、アクセシビリティ改善のためのアプローチについて
名古屋市 経済局イノベーション推進部スタートアップ支援室/小野寺光弘 氏
 日本語の読めない外国人を対象とした行政窓口業務の改善の試みの事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル化に伴う来庁時の住民(外国人)・職員双方の窓口手続き時の負担軽減のヒントを探る
・ 実証実験における窓口での利用者の反応について
・ 実証実験を通じて、どのような課題解決のための改善の取り組みがあったのかについて
長岡市 地域振興戦略部中山間地域集落支援班
 中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例を伺うことで、デジタル格差の課題の把握とともに、デジタル格差を解消するための寄り添い方のヒントを探る
・ 中山間地域に居住する高齢者を対象としたデジタル機器を用いた見守り事業の事例について

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3-2-2インタビュー結果
インタビュー結果から、専門家が認識している格差課題を抽出・整理し、課題類型ごとに[ 図表3-5 ]のとおり分類を行なった。
この結果、住民へのインタビューでは抽出できなかった様々な格差課題が抽出された。これらは大部分が「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」および「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」の課題類型に分類されるものであった。なお、これらの専門家が認識している格差課題は、一般論としてのものであり、特定の自治体に向けてのものではない。

a) 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足しているⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
ウェブアクセシビリティ推進協会
a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない
c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない
d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している
e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない
f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない
g)障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない
名古屋市イノベーション推進部
a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
長岡市地域振興戦略部
a) 自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高いⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ

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自治体 人口 格差課題を示唆させる内容 課題類型
D市 中核市(50万人台)

a) 高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要であるⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある
(セキュリティなど)Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 都市(10万人台)
a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性
(市がサービスを提供するだけでは足りない)Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足


A市 都市(10万人台)
a) 使い方の格差、リテラシーの差が存在するⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足


B市 都市(10万人台)
a) 高齢者がデジタルを使えないⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要があるⅡ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足、Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ、Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
d) デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足、Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如


C村 町村(約3千人)
a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ行政プロセスへの抵抗感・無関心



豊橋市市長 a)4分の1が高齢者。デジタル化が進めば進むほどデジタル格差は浮き彫りになってくるので対応が必要である
○豊橋市市長 b)外国人への情報提供というのは本当に大事。外国の方は生活習慣も違うため、例えば、今回のコロナに関してもどういうことに気をつけなければいけないということをきちんと届けなければいけない
○豊橋市市長c)若者はデジタルを使えるが、行政のサービスに興味がないし、知らない。若者にも行政に関心を持ってもらわなければいけないし、みんなで街づくりをしているということを感じて行動してもらうためには、まずいろいろな情報を発信して届けなければいけない
○長岡市市長a)長岡市は、中山間地に住んでいる市民が高齢化し、車も運転できない方が増えている。市役所に来ることも難しい。この中で、手続きや職員への相談のデジタル化(オンライン化)を行なっていくことが基本であり、高齢者を中心とした市民の利便性を高める必要がある
○長岡市市長b)デジタル機器がデザイン思考的な過程を経ずに、技術的なテクノロジーだけから出てくると、人間が技術に常に合わせる必要が生じる。そうすると高齢者は合わせることできない、使いこなせないというデバイドの問題が出てくる
○豊橋市職員 a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である
○豊橋市職員 b)年配の方は、スマートフォンを持っていない方やキャッシュレスを使っていない方もいる。この場合、マイナポイントの利用イメージは掴み辛い
○豊橋市職員 c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる
○豊橋市職員 d)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である
○ 豊橋市職員 e)庁内でも職員間のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる
○ 豊橋市職員 f)災害時、システムに登録されているメールアドレスに災害情報を通知するシステムを運用しているが、市民が直接システムに登録をする必要があり、本当に必要な人がシステムに登録できているかどうかがわからない。
○ 長岡市職員 a)そもそも行政とのつながりがない人、用事がないと思っている人が多いなど、行政と住民との間に距離がある
○長岡市職員 b)デジタル技術を使って情報を取得したり、行政サービスを利用したりすることができるかどうかということに意識が向いている方が少ない
○長岡市職員c)デジタルの壁を解消するために重要なことは、家族をはじめ信頼できる人からのフォローがあることだと感じている。そういった信頼・信用できる人が身近にいて、敷居低く相談できる状態になること、そういった環境を作っていくことが大事
○長岡市職員 d)行政サービスがデジタルで利用できるというイメージが浸透していない
○長岡市職員 e)単純に使いづらい、UI、UXが良くない、あるいはデジタルでできることを知らない、などがデジタルで行わない理由として考えられる
○長岡市職員f)みまもりのプロジェクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマホの設定 → 説明だけでは十分ではなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な支援が必要となることが少ないないと感じた
○長岡市職員g)みまもりのプロジェクトにおいて、スマートフォンを使い慣れている人でもインストールの障壁はあった。30~40代のユーザーであっても障壁があった。全体説明だけでは十分ではなく、個別説明によりフォローしたり、職員が代わりにインストールしたりするケースもあった
○長岡市職員 h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、ICT機器に対する苦手意識があった。抵抗感を覚える高齢者もいた
○長岡市職員 i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。日本語支援の不足が懸念される 


住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)
a) デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
b)Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

住民:【属性②】三世代世帯(日本人)
a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていないⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメー
ジできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
e) 自分が住む自治体への帰属意識が薄いⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
f) 手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配であるⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
g) 二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感があるⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)
a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかないⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配しているⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
住民:【属性④】外国人世帯
a) 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b) 自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)
a) 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
b) 入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがあるⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
c) 自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄いⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
専門家:たんぽぽの家
a) 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足しているⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会
a) 視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
b) 視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
c) 視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
d) 公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足しているⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
e) マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
f) 視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていないⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
g) 障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居るⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
h) 行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
専門家:名古屋市イノベーション推進部
a) 日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労するⅢ 身体的・認知的ハンディキャップ
専門家:長岡市地域振興戦略部
a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高いⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
b) 高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる
Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ


Ⅰ 貧困や深刻な障害によるデジタル


利用の前提条件欠如
d) 市民・行政サービス利用者に寄り添い、共に問題解決にあたる共創アプローチの姿勢が不足している
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
e) 職員自らが市民の立場の視点に立つための活動が足りない
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
f) 行政のデジタルサービスのユーザビリティの問題
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

デジタル格差の課題の実態


住民:【属性①】単身・夫婦のみ・夫婦と子供の世帯(日本人)
a) デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
b) Webで行政のデジタルサービスを利用しても、市の準備が出来ておらず対応が遅い(例:Webでの給付金申請)Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識
c)デジタルで個人情報を取り扱うことへの恐怖心がある(色々と個人情報が紐づけられているため)例:マイナンバーカード、セキュリティ面Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識
住民:【属性②】三世代世帯(日本人)
a)パソコンの字が小さいため、目が疲れる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
b)仕事で使う必要がないため、パソコンのソフトウェアの学習はしていない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識
c)デジタルの手続きは課題がある(ステップ数が多い、データの保持の問題(別日に継続して行おうとしたい際にデータが消失している))Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
c) デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
d) 自分が住む自治体への帰属意識が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識f)手続き内容が分からないとき、自分で全てやらなければいけないことが心配であるⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
g)二度手間・三度手間になるのではないか、という漠然としたデジタル手続きに関する不安感がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識
住民:【属性③】高齢者単身または高齢者夫婦世帯(日本人)
a)デジタルサービス利用によるメリットのイメージがわかない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識
b)インターネット利用に伴う通信量が高くならないか心配している。生活費への影響を心配している
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識
c)行政手続きで間違ってしまってはいけないことをパソコンで行うのは不安がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 未認識
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
住民:【属性④】外国人世帯
a) 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
b)自治体ホームページの英文への変換は、画像が翻訳されていないため、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
c)どのような手続きがデジタルでできるのか不明である Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
d)デジタルでの行政手続きの住民にとってのメリットが小さい(少なくても住民に行政手続きの不安を払拭するほどのメリットが認識されていない)
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
住民:【属性⑤】大学生・留学生(短期(3年前後)居住者の可能性大)
a) 英語ができる窓口職員がもっと多いとストレスが減る(手続きを行う意欲が湧く)Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
b)入力用紙や入力フォームでの名前の入力に際して、入力域が不足することがある Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識
c)自分が住む自治体の活動、行政等に興味が薄い Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
d)デジタルでの手続き以前に、既存の行政サービス自体の手続きをどのように行えばよいのか分からない。そのため、デジタル化された場合もイメージできない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
専門家:社会福祉法人わたぼうしの会(たんぽぽの家)
a) 障がい者や高齢者が、行政手続きをシミュレーションとして体験できる機会が不足しているⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
専門家:ウェブアクセシビリティ推進協会
a)視覚障がい者は、郵便(紙面)の場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
b)視覚障がい者は、PDFの場合、内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
c)視覚障がい者は、ハザードマップの内容が把握できない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
d)公共機関のWebサイトでのアクセシビリティの配慮が不足している Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識
e)マイナンバーカードをスマートフォンで読み込む際の位置が統一されていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識
f)視覚障がい者がどのようにパソコン等を利用しているのかを、行政職員は必ずしも理解しきれていない Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 未認識
g)障がい者だけでなく、行政のデジタルサービスで何が出来るのか知らない人も沢山居る Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
h)行政のデジタルサービスに関して、何が出来るのか利用者である住民に知らせていない Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 認識
専門家:名古屋市イノベーション推進部
a)日本語が苦手な外国出身の住民は、窓口での手続きの際に言葉が通じず苦労する Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識
専門家:長岡市 地域振興戦略部
a)自分でスマートフォンを操作して使ってもらうということが、高齢者にとってハードルが高い Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 認識
b)高齢者の中には、スマートフォンの画面操作すら困難な方々が多くいる Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ 認識

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まとめ

〈住民〉
・ 住民全体としては、「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が多い。
・ 外国人世帯や留学生は、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関わる格差課題を認識している。
・ 高齢者には「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関わる格差課題を認識している人が多い。高齢者の中でもデジタル利用の必要性が低い方の場合には、この傾向が顕著だった。

〈デジタル格差に関連する分野の専門家〉
・ウェブアクセシビリティ専門家などは、住民への情報提供手段の問題など「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に関する様々な格差課題を認識している。
・ ウェブアクセシビリティ、高齢者対策、福祉などの専門家は「V 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関わる格差課題を認識している。
・ 高齢者対策に携わる職員は、高齢者にとっての「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」に関する格差課題を認識している。また、デジタル利用への対応が困難な方のためのアプローチの必要性についても認識している。

〈海外政府でデジタル格差の課題に取り組む機関〉
・ 課題類型「Ⅰ貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如」、「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」、「Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足」、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」といった広範囲の格差課題を認識している。
・とくに、「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に関する格差課題に関して、市民の立場の視点に立つための活動の必要性を強く認識している。
(2)自治体の未認識課題の抽出
前節で行った自治体の課題認識と住民にとっての格差課題の実態のギャップから、自治体の未認識課題を抽出したのが図表3-9である。この結果から未認識課題について次の傾向が確認された。

〈住民が認識している未認識課題〉
・ 未認識課題全4件の内、課題類型「Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心」に属する格差課題が3件であり、大宗を占めた。
・ 外国人世帯から課題類型「Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ」に属するウェブアクセシビリティに関する格差課題が挙げられた。

〈専門家が認識している未認識課題〉
・ 障がい者へのアクセシリビリティ配慮不足に関する格差課題が3件指摘された。


デジタル格差に関する施策の充足状況

自治体 格差課題と認識している事項 

課題類型 デジタル格差の解消施策(計画や将来目標を含む)
豊橋市
a)多くの外国人住民に向けてSNS等を通じて更なる情報提供が必要である Ⅲ 身体的、認知的ハンディキャップ ・Facebookでの外国人住民向けの情報
配信
e)庁内でも職員感のデジタル格差がある。苦手意識でチャレンジできない職員もいる Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 ・行政職員のデジタル格差解消に向けたデジタルリテラシー向上

長岡市
b)デジタル機器等が、デザイン思考的な過程を経ずに技術的なテクノロジーから出てきた場合、人間が常にそのテクノロジーに合わせることになる。そうすると、高齢者は合わせることができない、使いこなせないⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心 

・職員への「デザイン思考」教育の実施
h)長岡市の中山間地域在住の高齢者は、機械に対する苦手意識がある。抵抗感を覚える高齢者もいる
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み
i)今後も外国人児童生徒は増える見通し。スタッフの不足が懸念される Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップ
・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施

D市
a)高齢者だけでなく、子どもに対するデジタル機器利用の配慮が必要である Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上
・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施
・ユニバーサルデザインの重視
b)住民のソフトウェア利用に対する不安、便利さに付随するリスクがある(セキュリティなど) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・個人情報がどのように保護されているかを丁寧に説明
A市 a)使い方の格差、リテラシーの差が存在する Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足 ・LINEやインスタグラム等の講習
・スマートフォン操作講習

B市
b)中山間部が多いことなどに起因する、アクセスのしやすさ/しにくさによる住民間の不公平感がある
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足 ・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備


自治体 格差課題と認識している事項 課題類型
豊橋市
a)現状、行政のデジタルサービスは、利用者に、どのように使うのかを考えさせてしまう状況である
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
c)高齢者の中にはデジタル化への対応に困難を感じている人がいる Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

長岡市
f)みまもりのプロヘクトにおいて、アプリのインストールが特にハードルが高かったと感じている。障壁として、1.怖さ(例:課金)、2.パスワード入力(忘れている)、3.位置情報等のスマートフォンの設定 → 説明だけでは十分でなく、操作のやり方を見せたり代行するなど実質的な思念が必要となることが少なくないと感じたⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

H市 

a)住民へのデジタル技術・サービスに関するセミナー等の開催の必要性(市がサービスを提供するだけでは足りない) Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足A市

b)若年層は得意・不得意がはっきりしている Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足

c)情報の発信側としての、発信手段に対する課題がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

d)デジタル環境にない住民の実態の把握ができていない Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足

B市
a)高齢者がデジタルを使えない Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
c)環境的に使えない人、能力的に使えない人、使い方がわからないだけの人、使おうとしていない人の意見が混在しているので分離の必要がある
Ⅱ ICTインフラなどのデジタル利用環境不足Ⅲ 身体的・認知的ハンディキャップⅣ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
d)デジタルにアクセスできない独居老人や貧困層への配慮は重要だが、デジタルサービスをスタートする機会を逸することは損失Ⅰ 貧困や深刻な障がいによるデジタル利用の前提条件欠如Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足


C村

 a)地域コミュニティに所属していない方が行政情報にアクセスできていない可能性がある Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心

4-2-3 未実施施策に係る課題の解決策の導出

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ケース①:住民のデジタルへの障壁の実態を把握できていない
解決策①:住民の状況を知るところから始める
・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)による住民への個別インタビューやグループでのインタビューを実施し、住民の声を聞く
Ⅳ デジタル利用への抵抗感・リテラシー不足
ケース②:デジタル機器利用が難しく、サポートを必要とする住民がいる
解決策②:デジタル活用支援員の仕組みを活用する。その際、信頼感が低いと話を聞いてもらうことが難しいため住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機 器の利点を伝え興味を持ってもらう
・職員が直接ではなく、住民が参加している各コミュニティ(例えば、外国人世帯の場合、出身国のコミュニティ)の代表者の方を介して関係を構築するⅤ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
ケース③:行政情報に触れられない・届かない住民がいる
解決策③:行政情報の配信方法 を見 直 す 。住 民の 状 況 によって 、LINE、Facebook、電子メール、手紙等の利用状況が異なるため配信方法は考慮する
・日本に在住する外国人のコミュニティによっては、Facebookグループが活用されているため、Facebookグループ内でシェアを行われることを想定した情報配信を行う
・視覚障がい者への手続きのための通知や情報配信は紙面ではなく電子メールで行う(電子メールであればテキスト読み上げツール等を活用して読み上げることができ、返信も音声によるテキスト入力ツール等を活用して対応可能であるため)
ケース④:行政のデジタルサービスが利用者の特性や状況を考慮できていない
解決策④:住民の状況を知るところから始める。提供する行政のデジタルサービスの利 用者になるであろう属性の住人へのインタビューや、普段使っているデジタルサービスの利用している様子を見せてもらう
・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)を踏まえ、行政のデジタルサービスの利用者である住民がどのような状況で、提供サービスを利用するであろうか把握する
・上記の方法論や考え方として、人間中心デザイン、サービスデザイン、デザイン思考という名称で体系化されているため、必要に応じて参考にする

ケース⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮が足りない
解決策⑤:障がい者への連絡手段や方法について配慮する
・障がい者への自治体のお知らせ:
・自治体Webサイトにて、お知らせの文書は、PDFをできるだけ使用せずに、テキスト読み上げツールが対応可能なHTMLで記載する
・Webサイトにおける画像の扱い:
・自治体Webサイトで用いられる画像の内容が、視覚障がいのある方に理解できるようにする。
・障がい者のデジタル機器やサービスの利用状況をインタビューの実施等を通じ把握した上で、上記を含めたアプローチを検討する
Ⅴ 行政プロセスへの抵抗感・無関心
ケース⑥:住民は行政サービスを知らず、手続きについての知識を持っていない
解決策⑥:住民が行政サービスの手続きイメージが得やすい環境をつくる
・住民が行政のデジタルサービスを利用する際、行政サービスの手続きイメージを持てるように、動画や図などで手続きイメージを伝える
・その際、住民に、このような情報が自治体Webサイトに掲載されていることを予め知ってもらうため、SNS(LINE、Facebook、Twitter等)で、自治
体Webサイトに役立つ情報があることを日頃から伝えていく
・デジタル行政サービスを使用している様子を撮影した動画を動画共有サイト(YouTube等)で公開し、使い方について動画で実感できるようにする
ケース⑦:住民は自身の手続きの間違いを恐れ、デジタル行政サービスを利用しない
解決策⑦:住民がデジタル手続きを行う際、何か失敗しても問題はない感覚を持てるようにする
・デジタル行政サービスでは、住民が一人で手続きするため、入力やデータの間違いなどがあっても問題が発生しないようにフェールセーフ(誤操作があっても安全に制御すること)の仕組み、またはそもそも間違えようがないようなナビゲーションを用意する
・それでも、なにか問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意する
・その存在を住民に日頃からSNS等で伝えていく
ケース⑧:デジタル行政サービスを利用しても住民が不満に感じ、メリットも伝わっていない
解決策⑧:住民がメリットが感じられるように、利用者の視点に立ってデジ
タル行政サービスを開発・改善した上で、住民にメリットを提示する
・ 住民がデジタル行政サービスを使用する際、よりメリットを感じていただけるように、利用者の視点でデジタル行政サービスの開発・改善を継続的
に行う
・ 職員自身がデジタル格差を解消した上で、提供するデジタル行政サービスに触れ、改善が必要な点とアピールすべきメリットを認識できるようにする
・ さらに、デジタル行政サービス利用のメリットを、より具体的に伝えていく(物品と交換可能なポイント取得や、自宅等で手続き可能等)


4-4|まとめ―自治体が講ずるべき施策

 
住民向け 職員向け
・SNS(Facebook等)での外国人住民向けの情報配信
・タブレットによる外国人生徒向けサポート(ワンタッチで通訳オペレータ)の実証実験実施
・集落支援員による高齢者のデジタル機器への苦手意識解消の取り組み
・個人情報に対するセキュリティの確保(個人情報の取り扱いをより慎重にし、個人情報の保護に万全を期す)
・子どもに対する教育分野を通じたデジタル・リテラシー/モラルの向上
・スマートフォン利用講座(LINE等のアプリ含む)の実施
・ユニバーサルデザインの重視
・主に山間部に対して、移動通信用鉄塔施設の整備
・行政職員のデジタル格差の解消
・職員への「デザイン思考」教育の実施
・住民と信頼関係を構築した上で、デジタル機器の利点を提示
・デジタル利用支援員の仕組みの活用
・行政情報の配信方法の再確認
・住民のLINE、Facebook、電子メール等の利用状況を考慮した配信
・住民のデジタル利用状況の把握
・住民へのアンケート、インタビューの実施
・デジタル活用支援員によるデジタル機器・サービスの
利用状況把握

住民向け 職員向け
・障がい者への連絡手段や方法への配慮
・自治体Webサイトのお知らせ文書について、テキスト読み上げツールが対応可能な形式(HTML等)での掲載
・自治体Webサイトで用いられる画像の代替えテキストの用意
・住民が行政サービスの手続きについて知識を持てるように配慮
・自治体Webサイトで、行政サービスの手続きイメージを動画や図を公開
・デジタル行政サービスの利用している様子の動画を動画共有サイトで公開
・SNSで、自治体Webサイトに役立つ情報が掲載されていることを日頃から住民に伝達
・住民がデジタル手続きを行う際に、何か失敗しても問題はない感覚を持てるように配慮
・デジタル行政サービスで、入力やデータの間違い等があっても問題が発生しないようにフェールセーフの仕組みを用意
・上記でも、問題が発生した際には、電話やメール等で対応できる仕組みを用意
・これらの存在を日頃からSNSで住民に伝達
・職員間のデジタル格差の解消
・職員がデジタルへの苦手意識を無くす取り組みの実施
・職員自らによるデジタル化された手続きの積極的利用推進
・職員たちによる自発的なデジタル格差解消のためのコミュニティづくり
・利用者の視点でのデジタル行政サービスの開発・改善
・人間中心のアプローチ(デジタルガバメント実行計画におけるサービス設計12箇条の“第1条 利用者のニーズから出発する”に対応)でのデジタル行政サービスの開発・改善の実施

初版:2021年3月31日
一般社団法人 行政情報システム研究所
本冊子の利用ルールは「政府標準利用規約(第2.0版)」に準じるものとします。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1.pdf